ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
翌日、時間通りに迎えに来た瀬戸山が、マンションの車寄せで待機していた。
私が外に出ると、国産車の中でもとくに高級なブランドのエンブレムが輝くセダンから、彼が下りてくる。
ネイビーのジャケットに同色のテーパードパンツ、白いTシャツを合わせた、シンプルな私服姿だった。
なにを着てもさまになる男なので、うっかり見惚れないよう伏し目がちになる。
一方私のファッションは、深い青に白のストライプが入ったリネン素材のシャツワンピース。楽な格好にも見えるが、ウエストに同素材のベルトがついており、キュッと締めればきちんと感も出る。
足元はストラップのついた黒のベルトサンダル。歩きやすさを考えてローヒールのものだ。
気合いたっぷりとは思われたくないが、せっかくのバラ園を歩くのにお洒落をしないのも悔しいので、お気に入りのコーディネートにした。
「おはようございます」
「おはよう。……なんだ? そのマスク」
私の鼻と口をすっぽりと覆っている不織布のマスクを見て、瀬戸山が眉を顰める。
「なんでもありません。どうぞお気になさらず」
彼と目を合わせず、ぼそぼそと答える。声が若干かすれているのはばれなかっただろうか。
ごくっとつばを飲み込むだけで、喉がひりひりと痛む。