ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
昨夜、体になにもかけずにソファでうたた寝をしたせいで、風邪をひいてしまったらしいのだ。熱はないが喉の調子がすこぶる悪い。
デートの延期を申し出ることも考えたが、とにかく早く瀬戸山との関係を終わらせて精神的に楽になりたかった。
「ふうん。てっきりキス避けかと思ったよ」
冗談っぽく言いながら、瀬戸山が助手席のドアを開ける。
いきなりキスだなんて単語を出されて頬が熱くなる。
マスクをしていて助かった……。
「……別に、そう思ってくださっても結構です」
「朝からずいぶんと不機嫌だな。ま、とにかく乗って」
促されるまま、助手席のシートに腰を滑らせる。膝の上に乗せたバッグにはもちろん、返却予定の指輪を入れてきた。
「バラ園までどれくらいかかるんですか?」
運転席に戻った瀬戸山の横顔に問いかける。
「四十分くらいだ。道が空いていればもう少し早いかもしれない」
「結構長いですね。運転、お任せしちゃってすみません」
「気にするな。運転は好きな方だが平日はあまり車に乗る機会もないし、いい気分転換だよ」
瀬戸山はさりげなくそう言って、車を発進させる。