ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~

 私の視線に気づいた彼は、周囲をキョロキョロするとふいにある場所を指さした。

 彼の示す先には、空いているベンチ。そこに座って待ってろ、ということなのだろう。

 自分だけ先に座るのは落ち着かないけれど、園内には人が多いのでぼうっとしてたらすぐにベンチも埋まってしまいそう。

 瀬戸山と目を合わせたままコクッと頷き、足を進めようとしたその時。

「わっ」

 きちんと前を見ていなかったので、すれ違った人と肩がぶつかってしまった。

「す、すみません」
「いや、こちらこそ……あれ? お姉さんどこかで会ったことがあるね」

 男性の声になんとなく聞き覚えがある気がして、顔を上げる。

 白髪交じりの髪と、ねっとりまとわりつくような視線。

 この人……矢代先生の内覧会にいた男性だ。あの時も彼とぶつかってしまって、服に彼のお酒がかかったうえジロジロ胸を見られたんだっけ……。

 うっすらとした嫌悪感を覚えるも、ぶつかったのは私の不注意なのでなんとか愛想笑いを貼り付ける。

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