ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
「先日、紫陽花楼でお目にかかりました。生け花のイベントの……」
「ああ、そうだそうだ。あの時は失礼したよ。俺のせいでお姉さんの服、スケスケのセクシー仕様になっちゃって。しっかし、マスクしてても美人だねぇ」
昼間の公園で下品なことを言い出す男性に、必死で浮かべた愛想笑いが、ぴきっとこわばる。
あの時も気持ちの悪い人だと思ったものの、お酒が入っている影響もあるのだろうと軽く受け流した。しかし、下品なのは元々の性格だったようだ。
……早くこの場を離れたい。
「お気になさらないでください。それでは連れがいますので私はこれで……」
「連れって、コレかい?」
男性がにやにやと口元を歪めながら親指を立てる。一度仕事の場で会っただけなのに、プライベートまで立ち入る神経が理解できない。
自分の本心とは反するものの、恋人がいると宣言しておいた方がけん制になりそうだ。
ここは瀬戸山の存在を利用させてもらうしかない……。
「ええ、お恥ずかしながら……」
「いいねぇ若い者は。オジサンなんかこの年で独身よ? マッチングアプリとやらを試してみてるんだけど、職業マスコミ関係って今は受けないのかね。俺のプロフィールには、〝いいね〟すらひとつもつかねーんだ」