ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~

 瀬戸山統が手品のように取り出したタブレットを、嬉々として覗き込む矢代先生。

 私はすっかり蚊帳の外になってしまい、気まずさを断ち切るようにペコッと頭を下げてふたりのもとを離れた。

 丸々実った葡萄のごとく立派な花を垂らす藤棚の下へ移動し、うつむいて唇を噛む。花の周囲をぶんぶん飛んでいる熊蜂の羽音が耳についた。

 悔しい……けど、矢代先生と瀬戸山園の繋がりを調べておかなかったのはこちらのリサーチ不足だ。

 私からの報告を楽しみに待っている役員たちになんて説明したらいいのだろう。

 とりあえず、美吉ブロッサムの副社長であり親友の室伏(むろふし)カンナにメッセージを打つ。

【ごめん。広告の件、満足に交渉できないまま、瀬戸山園に矢代先生を取られた】

 すぐに既読がついて、【ドンマイ】のひと言が送られてくる。

【華道家は矢代先生だけじゃないし、年配層の取り込み=和の生け花っていう発想もちょっと安直だったかもね。もう一度、みんなで策を考えてみよう】

 ……さすがはカンナ、冷静だ。

 一度は閉店してしまった祖父母の美吉ブロッサムを復活させるため、起業の準備をしていた頃から片腕として働いてくれている、運命共同体。

 近所で生まれ育った幼馴染でもあり、お互いのことはなんでも知っている。たぶん、今私が盛大に悔しがっているのも察しがついているだろう。

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