君の隠しているモノ
「あの人のメアド聞いちゃおうよ」
と同じバイト仲間の里奈がそう言ったのだ。彼女は私より一個上の大学三年生。
彼女もあの宅配員にきゃっきゃ言ってる1人。私は胸の奥に秘めて彼を見ていたが他のバイト仲間たちはダダ漏れしていた。
「だってさ、飛鳥も好きでしょう」
「はい?」
「わかるよ、彼の荷物受け取る時の顔が違う」
至って冷静に取り繕っていたのにそんなに顔の変化があったなんて。

「隠しててもわかるよ、他の子達もわかってるから」
って……隠してるつもりでもなかったけどさ。
私は否定も肯定もせず……メアドを聞く……里奈の提案に乗っかることにした。何となくノリで、ていう感じ。
仕事中だし無理だろう。
「あの子が好きなのかい」
私たちが学生として大学に行っている間にパートとして働いている少し年上の先輩の杉本さん。

「いや、好きとかそういう……」
ああ、こういうのでバレるのかしら、取り繕っているの。里奈はかっこいいから好きですーって堂々言うし。すごいなぁ。

「そんなにドギマギしなくていいのよ。あの子、あんたたちとそう歳変わらないし」
えっ? 里奈もびっくりしている。社員さんだから年上かと……。

「あそこの配達会社は高卒で正社員になれるしね。あ、たぶん飛鳥ちゃんと同い年じゃない?」

私と同じ、19歳か20歳?
大人びてるあの人が私と同じ歳……なの?

「ちわっす」
そんな時にふと現れる彼。そういや名前……知らなかった。

「飛鳥が聞く?」
「いやいや里奈が聞いてよ」
とか競り合いをレジでする。客がいないことをいいことに。

「どうしました?」
ふと胸元を見ると彼の名札……あ、こんなところに名札が。気づかなかった。いつも顔ばがり見ていたから。

「……足立さん……」
そのまま名前を読み上げてしまった私。

「はい、足立です」
と返事が返ってくる。こうラリーが続くのはなかなかない。業務的なやり取りくらいだ、普段は。

「ほら、聞きなよ」
里奈がせっつく。あなたが聞けばいいのに。

「この子達があなたとメアド交換したいって」
ひゃー! 杉本さん!!!

「はい、いいですけど」
いいんかい!!!

展開早すぎるけど無事メアド交換。何故か杉本さんもだけど。

「では失礼します!」
と彼はぼうしをくいっとあげて去っていった。
ああ、とうとう手に入れてしまった。ノリで……その場のノリで……。

名前が書いてあった。

足立恭弥。
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