コソ練のススメ
「で?どうすればいい?幡多くん」
翌朝。
半信半疑ではあったけれど、約束通りちゃんと公園に現れた幡多くんと、3ポイントラインに立つ。
「さぁ。俺、人に教えたことないし」
「なにそれ!引き受けたからには責任持って指導してくれないと」
興味なさげにあくびをする幡多くんに無理やりボールを渡す。
「…なに」
「とりあえず、お手本みせて」
私がそう言うと、幡多くんは仕方ないといった感じでボールをダンダンの2回バウンドさせた後、そのまま軽やかにシュートを放ってみせた。
昨日見たシュートと全く一緒。
三分の狂いもなく再現された。
私はまたパチパチと拍手をした。
「その拍手、鬱陶しいんだけど」
「え?ごめん。体が勝手に拍手しちゃう」
「…何だそれ」
幡多くんは、ぼそりとそう言ってボールを拾いあげると私にパスをした。
「ほら、手本見せたんだから。同じようにやるだけじゃん」
当たり前のように言われ、少しムッとした。
「わかってる…よっ!」
と、言いながら投げたボールは虚しくリングに弾かれた。
「…」
何も言わない幡多くんに視線を向ける。
「何か、ないの?アドバイスとか…さ」
「もう1回」
と、また胸元に飛んできたボール。
私は言われるがままにまたシュートを放つ。
今度はリングに擦りもしなかった。
そしてまたボールを渡される。
「もう1回」
幡多くんの声が、朝の公園に響いた。
それから何度かシュートを打たされたけれど、1回もリングをくぐることはなかった。