年の差十四の主さま~家を追い出されたら、最凶と呼ばれる魔法使いさまのお世話係になりました~
「いい抱き枕だ……」

 彼はそうおっしゃるけれど、これはいわゆるセクハラではないだろうか?

 なんて、いう気力もない。ただ、彼の手が私の背中に回って来たときには、さすがに我慢も限界で。

「お、お、起きてくださいー!」

 私は思いっきり手を振りかぶって、彼の頭を殴った。

 じんじんとした手の痛みを感じる。が、彼の痛みはそれよりも大きい……はず、なのに。

「全く、アルティエンは少しのジョークも通じない……」

 彼はなんてことない風に、起き上がる。手はぼさぼさになった髪の毛を掻いていた。

「これは立派なセクハラです! 国が国だったら、裁判沙汰です!」
「ふぅん、そう」

 ユスターシュさまは興味なさげにそう呟いて、寝台から下りる。

「全く、朝なんて一生来なければいいのに。そうすれば、僕は一生寝ていられる……」

 彼が洗面台で顔を洗いつつ、そう呟く。私は真新しいタオルを差し出しつつ、心の中で「それは無理だろう」と思っていた。

(というか、このお人はとっても恐ろしい魔法使い……なの、よね?)

 ここで働き始めて、三週間。世間一般的なこのお人の印象と、実際の印象がかなり剥離していることに気が付き始めた。

 冷酷だとか、冷徹だとか。凶暴だとか。

 そういう噂が大半を占めている彼は――。

「あぁ、忘れていた、おはよう、アルティエン」

 彼が私に微笑みかけて、そう挨拶をくださる。

 何処か癒し系というその笑みに、私の中の毒気が抜けていくのがわかる。

「お、おはよう、ございます……」

 頬を引きつらせながら、私はそう挨拶を返す。

 私はアルティエン。目の前のこのお人……国でも有数の魔法使いユスターシュさまのお世話係……です。
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