涙の流星

令和の夏

令和のとある夏、中学3年生の夏海は、人間関係のもつれで不登校になっていた。
母親から「受験生なのに高校は、どうするのよ」と口うるさく言われるのにもうんざりする。

父親は「まぁ、高校は、通信制でもいいよ」と言ってくれるが、母親は「私立受けてほしいのに」という。
母親は、いい高校、いい大学に入って安心させてほしいのだ。
夏海からは「自分の理想を押し付けないでほしい」とイラつくときとうんざりするときがある。

「じゃあ、母さんは、パートへ行くから、勉強くらいはしなさいよ。」
一階から母の声が聞こえる。夏海は、わざと無視した。
返事をすればよけいな一言帰ってくることくらいわかってるんだ。
「夏海!聞いてるの?ちょっと!行ってくるね!」
「わかってる!」

もうほっといてほしい。私の人生をお母さんが勝手に決めないでと言いたい。
相談したいが、父親は、あまりあてにならない。肝心の友人も今は、喧嘩しててダメ。
担任の先生も「お母さんは君のために言ってくれてるんだ」としか言ってくれない。
誰にも頼れない。

ふと夏海の頭の中に父方の祖父母思い浮かんだ。
適当な服に着替えて、歩いて10分程度の祖父母の家へ行く。
日差しはカンカン照りで、気温も30度以上ありそうな暑さ。
夏海は、帽子をかぶって、祖父母の自宅へ歩いた。

加賀と書かれた表札を通って、インターホンを押す。出て来てくれたのは、祖母だった。
「あら、夏海ちゃん。どうしたの?」
「ちょっと、おじいちゃんとおばあちゃんに話を聞いてほしくて・・・来ちゃった」
「いいわよ。おいで。」

祖父は、戦争の後遺症で足が昔から悪い。アメリカ兵に足を打たれて、後遺症が残ると医者に言われたとか
言ってた。
祖父から戦争の話を何度か聞いてる。祖父がいた部隊は、ほとんどが戦死した。中に学生時代親友だった子も
含まれてた。
自分が生きてるのが申し訳なくなるって言ってたの夏海は、思い出した。

居間へ通されると座椅子に座った祖父がいた。長時間正座は、とても耐えられないらしくて、昔から座椅子じゃないとダメらしい。

「おぅ。夏海ちゃんか。どうしたんだ?」
「おじいちゃん。お母さんがね。」
「また敦美さんが夏海ちゃんに余計な一言言ったんだろう。」
「うん。公立に行けとかうるさくて耐えられなくって。」
「わしからも言ってやろう。夏海の人生をあんたが勝手に決めるもんじゃないって」

戦争経験してる祖父から言ってもらえると説得力あると考えてた夏海。
祖母が冷たいお茶と濃いめのカルピスを持ってきてくれた。
祖母の良子は、夏海が濃いめのカルピスが大好きなのをよく知ってくれてる。
兵隊さんをお世話してたことがあるため、人の好みがよくわかるらしい。

「はい。健次郎さん。夏海ちゃん」
「ありがとう。良子。」

祖父母は、今でもお互いのこと名前で呼び合うほど仲が良い。
正直、羨ましいし、微笑ましい。

「またあの敦美さんかい?本当、健太は、何してるんだろうね。嫁さんにしっかりびしっと
一言言ってやらんと。夏海ちゃん、いいかい?勉強ができる人だけが社会でうまくやっていけると限らんよ。
世の中にはね、勉強できなかった人がいい出世したりするんだよ。」

祖父母宅は、いつ来ても居心地よかった。いっそ、ずっと祖父母のところへいたいが、祖母は、祖父の
看病で忙しいから迷惑かけられない。

夕方、お昼ご飯までごちそうになったので帰ることにした。祖父母が母に電話して、説得してくれると言ってくれたので
安心して帰った。

「夏海!あんた、どこへ行ってたの。勉強はしたの?さっき、おばあちゃんから電話来て、お母さんが叱られたんだけど、一体何を話したのよ!おじいちゃんにまで怒られて、意味が分からないんだけど」
「うるさいな!私の人生をお母さんが勝手に決めるから迷惑してると相談しに行っただけだよ。それが何か?脳みそ腐ってんじゃない?」
「あんた、親に向かってなんてことを。」
「黙れ!私の人生は私が決める。母さんが決める権利ないよ。」

その時、パーンと乾いた音がリビングに響いた。
母親にビンタされたと気づくまで時間はかからなかった。
母親は涙目で「そんなこと言う子は、ウチの子じゃないよ。」と言った。
私は、黙ってスマホを持って出て行った。

後ろで母親がすすり泣く声がしたが、聞こえないフリした。
なんでわかってくれないの?
夏海の中で悔しさでいっぱいで無我夢中で走った。
ご近所さんの目なんて気にしてる場合じゃない。ただ無我夢中だった。

友達なんて中学2年の修学旅行の日からずっと口をきいてない。
修学旅行中、隣のクラスの男子から告白された。その男子は、親友が好きだった子で
『なんで夏海が告白されるの?私の方がずっと好きなのに』
その一言でほかの女子が「かわいそう~」「夏海、最低」と親友を味方した。

それ以来、クラスでも浮いた存在で告白した男子に事情話して、告白は断った。
なのに些細な嫌がらせが続いて、とうとう不登校までになった。
父は、「思春期の女子はそんなもんだ」というし、母は「恋愛してる場合があるなら勉強しなさい」の
一点張り。担任に相談しても「イジメの確認できない」と言われるし、私の味方は父方の祖父母だけだ。

「かわいそうだね」「夏海をイジメる輩は、許さんな」
と話をわかってくれた。学校も行けるようになったら行けば大丈夫、遅れても教員免許取ってる
おじいちゃんが教えると言ってくれた。

気が付いたら、防空壕の跡地にいた。今夜は、此処で休もう。明日になれば母も頭冷えてるだろう。
ただ、学校の通学時間だけは避けたい。もしも親友やイジメた女子に会うのが嫌だから。
夏海は、着ていた上着を枕にして寝た。

見た夢は、幼いころの夢でまだ母も父も優しかったころだ。
大きくなったらお医者さんになりたいって話してたあの4歳の自分の夢だ。
なんでこんなことになったんだろう。
母は、いつから教育熱心になったんだろう。覚えてないや。
父と母も最近、冷え切ってる。あの頃に戻りたい。

静かに涙を流した。

目を覚ますと、気温が前より少し涼しいか暑いかの日差しだった。
街並みを見ると昭和の時代のような風景が広がっていた。
「(まだ夢の中?)」
夏海は、目をこすった。ドラマの撮影か何かではないかと思って、見渡すがカメラもスタッフさんも俳優さんらしき人もいない。
とりあえず、誰かに会ってここはどこなんだと聞こう。自分の住所くらい言えるし、電話番号も言える。
電話借りるか地図を見せてもらえればきっと帰れると思った。

昨日の夕飯から何も食べてないせいか、お腹がすいてフラフラする。
町の人は、「あの子、変わった服着てるわね~」「どこのお金持ちの子?」と話す。
ドッキリにしてはできすぎた会話の内容にもう失神寸前だった。

「大丈夫か?」

若い青年が声をかけてくれた。
見上げると、何度か祖父母の家でおじいちゃんが見せてくれた兵隊さん時代の写真、この人に似てる気がする。

「立てるか?とりあえず木陰で休もう」
青年は、夏海を横抱きにして木陰で休ませる。

「ずいぶん変わった格好してるが、もんぺ服や防空頭巾はどうしたんだ?そんな恰好じゃ空襲で身を守れないよ」
この人、何言ってるんだろう。でもどことなくおじいちゃんに似てる気がするんだよなと夏海は、頭がパニックだった。
「すみません。昨日の夜から、何も食べてなくて・・・。その、お恥ずかしいです。」

夏海は、正直に話すと、青年は「それは、大変だ。」と言って、私を支えながら、「幼馴染が定食屋を経営してるんだ。」と
案内してくれた。
「すみません。あの、これ、何かのドラマの撮影ですか?」
「どらま?何の話だ?変わった単語だな。」

ドラマを知らない?この人、よほどテレビを見ないのかな。
夏海がタイムスリップしたと気づくのは、定食屋で青年が名前を呼んだ時だった。

「おーい。良子。すまないが、この子にご飯食べさせてくれないか?昨日の夜から何も食べてないらしい」

良子?どこかで聞いたような名前だと夏海がフリーズしてると奥から「はーい」とかわいらしい声の返事が来た。
「健次郎さん、いらっしゃい。あらまぁ、大変!すぐごはんを用意するから座って待っててちょうだいね」

健次郎?おじいちゃんと同じ名前だ。さっきの良子もおばあちゃんと同じ名前だと確信した。
「すいません。お名前をお伺いしていいですか?私は、加賀夏海です。」
「そうだな。名前を言ってなかった。それは、すまなかった。俺の名前は、加賀健次郎だ。年は22歳だ。
さっきのは、俺の幼馴染の飯田良子だ。ちょうど同い年なんだ。」

加賀健次郎、飯田良子

パズルのピースがはまったかのように夏海は、昭和20年戦争真っ最中の日本にタイムスリップしたとわかったのだった。


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