亡国の奴隷姫と独裁国家の狼王子 ~処刑寸前に仇の王子の奴隷に落とされました~


 シルフィリアは呆然と、その横たわる背中を見つめていた。
 どうやら、危機を脱したらしい。
 いや、実験体と言っていた。明日から、何をさせられるのか。今後の身の安全を考えると、そして弟達のことを考えると、閨で寵愛を得ていた方がいいのではないか。

 グルグルと悩みながら、シルフィリアは、隣の男を起こさないように、そっと寝台を離れた。
 備え付けの風呂場に向かい、鏡で自らの鎖骨を見ると、赤い跡がついている。
 シルフィリアは、羞恥で瞬時に体温を上げてしまったが、必死に気を落ち着けて、似たような跡をいくつか体に付けていった。
 最初は難しく感じたが、段々と手付きが慣れていく。
 最後に、全体を鏡で確認しようとしたところで、シルフィリアは視界が歪んで、鏡の中の自分が見えないことに気がついた。

「……ふ、……ううっ……」

 一度あふれた心は、もはや止めることができなかった。

 シルフィリアはこの夜、国を亡くしてから初めて泣いた。
 声を押し殺しながら、止まらない涙に、全てを諦めて身を委ねる。

 その密やかな声に、寝台でレイファスが薄く目を開けたけれども、そのままゆっくりと目を閉じた。

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