亡国の奴隷姫と独裁国家の狼王子 ~処刑寸前に仇の王子の奴隷に落とされました~
3章 レイファスという男

 それからシルフィリアは、意外なことに、第四王子レイファスのお気に入りとして扱われた。

 レイファスは、緋色の瞳をした薄幸の奴隷姫を、ありとあらゆる場所に連れ回した。
 ほぼ毎日同じ寝室を使い、執務の間も食事の時も、片時も離さない。
 けれども、夜、彼女に触れることは決してしない。

 詮索するなと言われたけれども、シルフィリアには現状が不思議で仕方がなかった。

 何故、恋人でも寵姫でもないシルフィリアを、これほど連れ回すのか。

 彼は、敵国の姫であった彼女を、仕事場に入れることをためらわない。
 シルフィリアが機密事項を漏らすとは思わないのだろうか。

 しかし、これについては次第に、悩む必要がないことに気が付いてきた。
 彼女は確かに、レイファスと共に執務室にいることでラグナ王国に関する機密事項をいくつも知り得たけれども、レイファスによる拘束時間が長すぎて、それを誰かに漏らす暇がないのだ。

 現に彼女は、一番話をしたい弟達と、挨拶を交わすことすらできない。

 心配だった弟ジルクリフと従弟のセディアスは、どうやら侍従と同様の立場で働かされているようだった。
 緋色の瞳について研究をしたいと言っていた割に、特殊な実験をしている様子は見受けられないらしい。

 らしい、というのも、侍女アリアに詰め寄ってようやく聞き出したことで、あとは侍従の制服を纏ってたびたびレイファスの私室に現れる弟と従弟に、目配せを送り、様子を窺うことしかできないのだ。
 二人の元気な姿を見て安心はしているけれども、彼女の横には常にレイファスの姿があり、話をする時間は与えられていない。

 だから、シルフィリアは孤独だった。

 レイファスは、必要以上のことを彼女と話そうとしない。
 執務のこと、国のことに関しては、意外なことになんの躊躇もなく返事が返ってくるが、それも非常に端的なものだ。
 そして、二人の間には、私的な会話は一切ない。

 その結果、その日食べたものの味、起こった出来事、そういった他愛のない話をする相手がいるということが、どれだけ己にとって必要なことだったのか、シルフィリアは身をもって実感していた。

 だから、無礼な謎の来訪者のことを、無碍に扱うことができなかった。

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