亡国の奴隷姫と独裁国家の狼王子 ~処刑寸前に仇の王子の奴隷に落とされました~

「レ、レイファス」
「兄上が私の部屋まで来るとは、一月は嵐が吹きすさぶことでしょう」
「お前、ライアス兄さんに呼ばれたはずでは」
「大した用事ではありませんでしたから、すぐに済ませてきました。それより、呼び出しのことを知った上でここに来たとは、私に会いに来たわけではないようですね。……兄上の趣味も変わったものです」
「……!」

 レイファスは人の姿を保ったまま、扉の端にもたれかかるのを止め、悠然と歩きながらシルフィリア達のところへとやってくる。
 そうして、レイファスが二人の目の前にやってきたところで、リチャードが獣の姿を解き、シルフィリアを開放した。
 首から第二王子の手が離れた瞬間、シルフィリアは身をひるがえすようにしてレイファスの腕の後ろに隠れ、それをレイファスは冷めた青い瞳で見ている。

「お前が、独り占めするからだ。緋色は、俺だってほしかったんだ!」
「であれば、そのように父上に進言すればよかったことでしょう」
「先にお前が、手を出したから!」
「私が手を出すまで気が付かなったということは、さほどの興味ではなかったのでしょう」
「世界を敵に回すことになるからだ!」

 鼻白み、叫ぶリチャード第二王子に、シルフィリアは無意識にレイファスの腕に身を寄せる。

「緋色の一族に触れるのは禁忌だ! だから、父上が許さなかった! なのに、お前が欲しいといっただけで、父上は手のひらを返したんだ!」
「根拠もなくそのようなことを言うのはおやめになった方がいいと思いますよ。シグネリア王国を攻めるよう進言した王子が誰なのか、秘匿されているはずです」
「見ていればわかる! お前以外に居るものか!」
「まあ、そのように思っていただいても問題はありません」

 びくりと肩を震わせて、身を強張らせるシルフィリアに、リチャードはあざ笑うように叫んだ。

「お前のお気に入りの女は知らなかったようだな。お前が自分の国を滅ぼした張本人だと知って、そんなふうに身を寄せて居られるものか!」
「そうやって、言葉でこの女の心を離すことができたとして、兄上は一体何がしたいのです」
「お前がその女に手を出していないんだろうと言っている」
 青い目を見開く弟に、リチャードは満足げに下卑た笑いを浮かべる。
「俺によこせ。三人も要らないはずだ。雄は残してやる、女はここで連れていく」

 シルフィリアは、そのやり取りを聞いて、頭の中で嵐が舞うようであった。

 薄々気が付いてはいた。

 シグネリア王国に攻め入るよう、進言した王子が誰なのか。彼女の生国に興味を持ち、緋色の一族を欲し、すべてを手配した者の正体。

 けれども、シルフィリアは今、レイファス第四王子に命を握られているのだ。
 その生殺与奪は、彼の手の中にあり、その上で、彼女は大切な植物のように生かされている。
 少なくとも、目の前の第二王子リチャードの手に落ちるよりは、ずっと大切に。

 震える金髪の緋色姫と、満足げに嗤う兄に、レイファスはため息をついた。

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