亡国の奴隷姫と独裁国家の狼王子 ~処刑寸前に仇の王子の奴隷に落とされました~
4章 弟達との再会

 その機会は、意外にもすぐにやってきた。


 今のシルフィリアは、レイファス第四王子の奴隷だ。

 そして、彼の寵愛を一身に受けるとされているシルフィリアは、ほとんどレイファスと離れることはない。
 所用で離れることはあれども、リチャードを警戒しているのか、その時間は今までよりもさらに短いものとなっている。

 彼が女使用人を寝室に呼ぶときは流石に別室で眠るけれども、その別室の窓には鉄格子が嵌めてあるし、ドアにも何重にも鍵と防護魔法陣が敷いてある。
 中は豪奢な作りをしており、浴室やトイレ、本棚やソファなど、籠る分には快適な作りをしているが、正直、爆撃か夜襲でも受ける予定でもあるのか問いただしたくなる環境であり、その堅牢な造りの部屋がシルフィリアを何から守ろうとしているのかを考えると、抜け出して弟達と会話をすることなど到底できなかった。

 しかしある日、レイファスがシルフィリアを珍しく長く側から離したのだ。

「殿下。私どもではもう堪えきれません」
「……」
「どうか」
「……私が行こう」

 パッと喜色を浮かべる宰相に、レイファスは深く息を吐く。

 シルフィリアは、軽く目を見開いてレイファスを見た。
 レイファスは、政治官僚としても優秀のようで、ひっきりなしに官僚達が書類を持ち運び、相談していた。
 しかし、シルフィリアを連れ回すようになってからというもの、国王の前に姿を見せることはなかった。
 ……この女のせいで、という愚痴を聞いたことがある。

 おそらく、レイファスは、自分のような奴隷を連れ回していることを、国王に見せたくないのだろう。

 シルフィリアがそう思うと同時に、レイファスが口を開いた。

「お前は部屋に戻れ」
「えっ」
「私の部屋に籠っていろ」

 レイファスはどうやら、シルフィリアを国王の前に連れていく選択ではなく、部屋に置いていく選択肢を選んだらしい。

 彼はシルフィリアを自室に送ると、部屋の中、扉の前でシルフィリアを抱きしめた。
 侍女や侍従達が見ているが、お構いなしのようだ。

 軽く――レイファスにしか分からない程度に身をこわばらせたシルフィリアに、彼は小さく嗤うと、まるで睦言を言うかの如く、耳に口を寄せる。

「部屋からは出るな」
「……、はい」
「知らぬ男を見たら逃げろ」

 え、と声を漏らす前に、首筋にやわらかな感触と、チクリとした痛みが走って、シルフィリアは思わず目を閉じる。

「すぐに戻る」

 何をされたのか把握したシルフィリアが、思わず体温を上げると、彼女の様子を見たレイファスが、ふと――今まで見たことがないような、自然な笑顔で頬を緩めた。
 いつも無表情で冷たい彼が見せたそれに、シルフィリアは呆けたようになってしまう。
 レイファス再度、彼女の耳元に口を寄せると、「演技が上手くなったものだ」とこぼして去っていった。

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