亡国の奴隷姫と独裁国家の狼王子 ~処刑寸前に仇の王子の奴隷に落とされました~
「あなたは女になって堕落したようだ」
「セ、セディ」
「あいつは我々の仇です。それなのに、あなたは奴に絆されている」
「そういうわけではないわ。私は……」
「毎夜抱かれ、フィリアの花を捧げられて、満足ですか」
窓際に飾られた真っ白な花のことを言われ、シルフィリアはカッと顔を赤らめた。
それは、レイファスが手に入れてきたものだった。
シルフィリアの亡き母国である、シグネリア王国。その国花であるフィリアの花を、彼は何も言わず、常にシルフィリアの視界に置いている。
母国では知らない者はいないその花言葉を、かの狼王子はきっと知らないのだろう。
それに、彼がどういった意図で、その花をシルフィリアの周りに置いているのか、彼女にはわからない。
けれども、そこには一滴の優しさが隠れているように感じられて、シルフィリアの心をひどく揺さぶっていた。
だからこそ、セディアスにそれを突かれて、平常心でいることができなかったのだ。
しかも、セディアスは神官だった。
フィリアの花を祭り、女神フィリアに祈りをささげるシグネリア教会。
それはシグネリア王国を支える柱の一つであり、国家と教会の良い関係を保つため、王族の中から必ず数名は協会に従事する者を輩出することとなっていた。
そうして神官となった従弟セディアスは、フィリアの花を神聖視しているからこそ、シルフィリアとレイファスの間でこの花のやりとりがあることが許せないのだろう。
その想いがわかるからこそ、シルフィリアは、何も言い返せない自分を恥じ、震えることしかできない。
「――セディアス。姉さんを責め立てるだけならば、僕はお前を二度と姉さんの前に連れてこない」
セディアスは、ビクッと肩を揺らす。
弟ジルクリフの暗い視線に、シルフィリアも息を呑んだ。
弟はときに、こういった強い意思をみせることがある。
それは、施政者としてやるべきことを見据えている際に、それを成し遂げるためのものだった。
弟は、シルフィリアに、セディアスに、そしてレイファスに、何を見ているのだろう。