亡国の奴隷姫と独裁国家の狼王子 ~処刑寸前に仇の王子の奴隷に落とされました~
5章 変化

 それからというもの、レイファスのシルフィリアに対する扱いに変化が生じた。

 今までのレイファスは彼女を連れまわすのみであったが、何をするにしても、彼女の意見を聞くようになったのだ。
 その意見が通るかどうかは、別として。

「工事に関する予算がこれだけある。直さねばならぬ橋、戦禍の跡地、経済振興、全ての箇所に予算を割り振ることは不可能だ。この場合、お前ならどうする」
「私なら……まずは管轄の官僚達に、重要度に応じてまず振り分けをさせます。絶対に工事が必要な箇所、施工が望ましい箇所、手が空き次第施工すべき箇所、優先度の低い箇所にふるい分けを」
「絶対に工事が必要な箇所として、経済振興のための場所は含めてよいと思うか」
「私の祖国であれば含めません。それは小国であり、予算が少なく、民も国の活性化よりも平穏を求める気質にあったからです。けれども、この国は大きく、予算規模も大きい。そして何より、国民の活力、気力が、国の経済力と防衛力の基盤となっています。私が君主であれば、含めてよいと判ずるかと」
「ふむ。他に何か意見はあるか」
「……特には」

 ふむ、とレイファスは頷くと、資料の上に治水に関する本を置いた。

「私であれば、官僚の意見のみならず、外部の学者の意見も取り入れる。大国であればあるほど、官僚は油断ならぬ」

 意表を突かれたシルフィリアは、自らの視点の甘さに唇を噛む。
 けれども、レイファスは彼女の不出来を責めることなく、何でもないことのように話を続けた。

「だが、学者の奴らは小うるさい。検討に時間もかかるし、納得するまで口が止まらぬ。王政であれば、敢えて聞かぬという方法もあるものだ」

 シルフィリアは目を丸くした。
 この終始無表情な赤髪の男は、もしかして、シルフィリアのことを慰めようとしているのだろうか。

「わかっていて選ぶことと、最初から知らぬことは別物だ」

 彼女の気持ちを読んだ上で突き放してくる言葉に、シルフィリアは憮然とする。
 そんな彼女に、レイファスは珍しく、くっと笑いをこぼす。
 そのような姿は初めてのことで、シルフィリアが呆気に取られていると、高貴なる赤髪の王子は、決まり悪げに目を逸らしている。


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