亡国の奴隷姫と独裁国家の狼王子 ~処刑寸前に仇の王子の奴隷に落とされました~
ぎくりと体をこわばらせ、後ろを振り向くと、部屋の扉の内側にレイファスの姿があった。
彼の話をしているところを聞かれたのは気まずいが、そもそもここは、シルフィリアの私室だ。奴隷姫の主人であるレイファスは、当然に入る権利があるとはいえ、閨を共にしていない仲で、衣装合わせの最中に入ってくるのはいかがなものか。
同じことをアリアも思ったのか、レイファスと最も気安い侍女は、躊躇うことなく主人に苦言を呈した。
「レイファス殿下。シルフィリア様は、お召し替え中ですよ」
「私は主人だろう」
「それでも、気を遣ってくださいませ」
「……善処しよう」
レイファスは、意外にもアリアの言には素直に従うようだ。しかし、納得がいかないのか、無表情の中に、ほのかに憮然とした様子が漏れ出ている。
完全無欠のように見える狼王子の感情が漏れていることに、思わずシルフィリアは失笑した。
そして、その笑い声に赤髪の王子は驚いた顔をしてシルフィリアを見つめ、我に帰った緋色姫は、咳払いをして、ツンとすまし顔をする。
そんな二人の様子に、アリアはニコニコと微笑んでいる。それが、シルフィリアにはこの上なく恥ずかしい。
「それで、首尾はどうだ」
「はい。仰せのままに」
アリアが頭を下げると、レイファスはシルフィリアに近づいた。
シルフィリアは、彼の意図が掴めず、目を瞬いた。
彼女が今、身にまとっているのは、レイファスが用意した衣装だ。
淡い緑色から濃い緑色へのグラデーションが美しいデイドレスで、森の中で移動がしやすいよう、ヒールがかなり低いロングブーツと合わせている。
そこに可愛らしい深緑色のショートジャケットを羽織り、手袋をブーツと合わせた革製で揃えた、森の散策仕様の出立ちであった。
全体的に活発な貴族令嬢らしさに溢れた意匠で、シルフィリアに大変似合っていると思う。
ほんの少しだけ、服の贈り主に見てもらいたい気持ちも、なくはなかった。
しかし、レイファスの位置は、距離が近すぎないか。
そんなにも間近に立っていては、全身のコーディネートを確認することもままならないはず。
不思議に思い、シルフィリアが静かにレイファスを見上げていると、彼はおもむろに、シルフィリアはのスカートを勢いよくめくった。
シルフィリアとアリアは、時が止まったかと思った。