亡国の奴隷姫と独裁国家の狼王子 ~処刑寸前に仇の王子の奴隷に落とされました~


 そして、今年の観客達は、鹿狩りという祭りへの期待以外の理由でもざわついていた。

 会場の中央、展示場近くの参加者用貴賓席に現れた第四王子が、数ヶ月前、処刑を中断させ、自らの奴隷に堕とした緋色の瞳の王女を連れ立っていたのである。

 若く見目麗しい二人は、揃いで仕立てた深緑色のジャケットを羽織り、恋人のように仲睦まじく寄り添っている。

 第四王子は相変わらず無表情で、つれないそぶりだ。
 しかし、対する緋色の瞳の王女は、主人たる第四王子に腰を抱かれているせいか、何かに耐えるような表情で目をさまよわせており、その恥じらいが周りに伝わり、えもいわれぬ空気を醸し出している。

 第一王子は妃を複数持つものの移り気で身勝手、他の王子達はいまだ妃を迎えておらず、特定の女性と仲睦まじい姿を見せたことがなかったため、第四王子の様子は人々の目に異なものに映った。
 しかも、相手は亡国の姫君。
 奴隷として遇することとなった人族の王女である。

 まさかこの娘を妃として迎え入れるつもりなのかという、愚行扱いする者。
 人族とはいえ美しく魅惑的な女の牙を折り、惚れこませていることへの賛辞を向ける者。
 清純な色香にあふれた王女の様子に下卑た目を向ける者。
 仲の良い番のような雰囲気の二人の様子を、ただ慶事として受け止める者。

 様々な視線が飛び交う中、第四王子は国王への挨拶のため、貴賓席の中、会場の最も景観のいいその場所へと向かっていた。


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