亡国の奴隷姫と独裁国家の狼王子 ~処刑寸前に仇の王子の奴隷に落とされました~


 だから、断頭台に上がるときも、久しぶりに顔を合わせた弟と従弟を見て、笑みを浮かべる余裕すらあった。

 ラグナ王国の国民からは、殺せ、殺せと喝さいが上がっている。
 彼らは獣の形態こそ持たないものの、狩りを行う捕食動物の気質を持っている。戦勝品であるシルフィリア達の処刑に、湧いているのだ。

 シルフィリアが左を見ると、従兄のセディアスがこちらを見ていた。
 いつもきっちり整えている深い紺色の髪は薄汚れているが、断頭台での処刑の邪魔になるからであろうか、いつもどおり、後ろに一つに結わえてはいるようだ。
 そのダークグレーの瞳には、怯えと悔しさがちらついている。

 シルフィリアが右を見ると、金髪に碧眼の、彼女より少し背の低い弟が、こちらを見ていた。
 従兄と同じく、短く切った金髪は薄汚れていたものの、その碧色の瞳には、どこか安堵したような色が浮かんでいた。

 シルフィリアは、二人を見て、何を言うこともなく、断頭台のある広場に居るラグナ王国の国民達に目を向けた。
 空は快晴、湧き上がる観衆、後ろには処刑器具。

 普通の貴族の令嬢であれば、震えあがり、泣き叫んでもおかしくないようなその場面で、シルフィリアはただ微笑んだ。

 透けるような白い肌、きらめくホワイトブロンドの髪、そして何よりも輝く緋色の瞳。
 彼女の、儚くも強い輝きに、処刑を望む喝さいが止んだ。
 誰しもが、最期の時を受け入れた亡国の姫に見入っている。
 自らの死を受け入れた、緋色の瞳の、美しい悲劇の姫君。

 そのとき、一つだけ、声が上がった。

「――私に、この者達を」

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