亡国の奴隷姫と独裁国家の狼王子 ~処刑寸前に仇の王子の奴隷に落とされました~
「……兄上は、賭け事を好まれる。だから、己の子ができるのかどうか、天に任せておられるのだ」
言葉の意味を解したところで、シルフィリアはほのかに頬を赤く染めた。それはつまり、そういうことなのか。
他に、貸し出す……。
恥じらう奴隷の姫に、ライアスは目を細めた。
その焦げ茶色の瞳には、獲物を見つけたようなぎらついた色が浮かんでいる。
「妃達をここに連れてくるのも、たいがい面倒であったからな。しかし……」
ふいにライアスの顔が迫り、シルフィリアは驚いたけれども、それを表には出さない。
ここは社交の場だ。
シルフィリアの失態、意気地のなさはすべて、亡シグネリア王国と――レイファスが、被ることになる。
ゆったりと長いまつげを上げ、迫る男を不思議そうに眺めている緋色の瞳に、第一王子は満足そうに笑んだ。
「兄上!」
「なるほど、本当にいい獲物だ。お前がいつまで、あれから守り切ることができるか、賭けてみるのも面白い」
「これは既に私のものです。リチャードの兄上が手を出すことはありますまい」
「さてな。獣人は年ごとに相手を変えるものだ。兄弟のものに手を出すことは少ないが、それほどの価値を感じるのであれば、異なることもあるだろうよ。多少貸し出せば、あれも満足するのではないか」
「リチャードの兄上は、女を使い潰します。貸し出しでは済まないでしょう」
「兄をよくわかっている弟だ」
くつくつと嗤うライアスに、レイファスは憮然とした顔で挨拶をし、シルフィリアを連れて貴賓席へと動き出してしまった。
ライアスはそれを追う様子がなく、弟の乱暴な辞去をさして問題にしていないらしい。
正直助かったと、シルフィリアは思う。
彼女は所詮、ラグナ王国の王族にとって、おもちゃに過ぎないのだ。
ただ人目をひくだけの、か弱い人族の姫君。
これ以上あの場に居ても、ライアスに何を強要されるかわかったものではない。
安堵すると同時に、シルフィリアは、レイファスの庇護下にあることの幸運を思う。
それに、『訓練』も無駄ではなかったようだ。
あれがなければ、きっとレイファスとシルフィリアの関係は、あの第一王子に看過されていたに違いない。
彼は以前、すべて理由あってのことだと言っていた。その言葉のとおり、この旅路における甘やかな時間も、理由があってのことなのだ。
そう思うと、心に針が刺さったような、不思議な心地になるけれども、その理由に、シルフィリアは目をふさぐ。