亡国の奴隷姫と独裁国家の狼王子 ~処刑寸前に仇の王子の奴隷に落とされました~
2 鹿狩り
午前十時を回り、鹿狩りの開催の鐘が鳴った。
国王の宣旨の後、参加者達が会場の中心に集まってくる。
その数は多く、ゆうに三十組を超えているようだった。
基本的に、鹿狩りは三、四人程度が組んで参加し、供の者を最大十人まで連れて行動することができる。人数が多いと鹿に察知されやすいが、鹿を射止めるとその組の従者がその鹿を会場に運ばねばならないので、それなりに供の数を要するのだ。
鹿は百五十匹ほど放たれており、多くの参加者はその日、一、二匹の鹿を狩ることができれば十分といった程度に終わる。
けれども、優勝争いをするような強者達は、十匹にも及ぶ鹿を仕留めることもある。
さすがにその場合は、十人では運搬の人員が足りないため、通信用の道具を鳴らし、会場の運営者達に補助を求めることを許されていた。
レイファスの組は、レイファス本人と、彼の側近である猿の獣人が二人、あとは近衛からカエルの獣人が一人、参加者として登録されていた。
供の者は、当然ながら、最大人数の十人まで配置されている。
そのうちに、アリアは居なかった。彼女は今回、王宮に残っているからだ。
アリア曰く、レイファスは鹿狩りに、あまり弱者を連れてきたくないと思っているらしい。
言われてみると、配置された十人の従者は、そのうち七人が近衛や護衛達から構成されていて、何かあった際に自分の身を自分で守れるだけの基礎訓練を施された者ばかりであった。残った三人は、シルフィリア達の身の回りの世話をするための侍女が一人と、侍従が二人である。
なお、シルフィリアは王族であるレイファスの連れであるため、数には含まれないらしい。
それはそれでいいものかとシルフィリアは眉をひそめたけれども、それに反論したのはレイファスであった。
「お前は、父が連れる女の数に口を出せるか?」
シルフィリアは黙った。
主催が最高権力者とはいえ、運営側にもできないことはあるのだ。参加者側がそれを察するしかない。