亡国の奴隷姫と独裁国家の狼王子 ~処刑寸前に仇の王子の奴隷に落とされました~
とはいえ、結果的に他よりも人数が多くなってしまったのは、レイファスの組だけである。
居心地の悪さを感じながらも、シルフィリアはただひたすら、レイファスの馬にのせてもらいつつ、邪魔にならないことだけを目標に、ただひたすら気配を消すよう努める。
ただし、彼女はデイドレスをまとっているので、基本的にはレイファスの馬に横乗りで同乗している状態だ。
馬にまたがっていないため、レイファスに支えられなければ位置が安定しない。
存在しているだけで、彼の邪魔をしている。
しかしこれは、レイファスの指示によるものなのだ。
元々このデイドレスは、またがる形で馬に乗ることもできるよう、両サイドにスリットが入っていた。
けれども、実際にまたがってみると、横脇に、ロングブーツでは隠し切れない白い太ももがちらついてしまうのだ。
なんの気なしにそのように騎乗したシルフィリアと、目をさまよわせる配下達に、レイファスは眉間にしわをよせながら彼女を叱った。
「お前には恥じらいがないのか」
「……」
「それは禁止だ」
不機嫌を隠さないレイファスに、シルフィリアは黙っていた。
配下の者達も、助け舟を出さなかった。
どう考えても、乗馬用パンツではなくデイドレスを用意したレイファスが悪いと思うのだが、それを口に出す無粋な勇者は、彼の周りには存在しなかったのである。
そんなわけで、初めからハンデを背負ったラグナ王国第四王子であったが、しかしその程度のことは彼の枷にはならないらしい。
レイファスは森に入ると、全員に気配消すように命じ、己は獣の姿に転変した。
突如間近に現われた深紅の狼に、シルフィリアは目を剥いたけれども、声を出す前に、彼の手で口を塞がれる。
レイファスが爪を出していないので怪我をすることはなかったが、ふかふかの赤い毛と柔らかい肉球が顔に触れ、恐怖や恥じらいとは違った理由でシルフィリアは動揺してしまう。
配下の者達や彼の愛馬は慣れているのか、レイファスに命じられるまま、気配を消しているようだ。
「北北東だ」
それだけ言うと、レイファスと、参加者登録されている三人は、ゆっくりと馬を北北東に向けて動かす。ひそやかに移動したその先では、大きな角を生やし、立派な体躯をした鹿が、草を食んでいる様が見て取れた。
レイファスが側近の一人に目で指示をすると、その一人は弓をつがえ、寸分たがわずその鹿の肩を射抜き、あっという間に一匹目を狩り終えてしてしまったのである。
流れるようなその動き、瞬く間のことに、シルフィリアは狩りとはこのようなものであったかと疑問を抱き、人族と獣人との違いを改めて痛感する。
「おめでとうございます……」
「うん」
「こ、これは、最初の鹿なのでは?」
確か、最初の鹿を射止めた組には、賞があったはずだ。
だから、初手で射止め次第、運営の連絡することとなっている。