亡国の奴隷姫と独裁国家の狼王子 ~処刑寸前に仇の王子の奴隷に落とされました~
誰よりも早く変化を感じ始めたのは、レイファスであった。
急に目を見開き、苦しみ始めたかと思うと、シルフィリアを突き放し、逃げるように指示したのだ。
「で、殿下!? 一体何が――」
しばらくすると、苦しそうな顔をしているのはレイファスだけでなく、供の者、皆が同じ状態になりつつあることに、シルフィリアは気が付いた。
なんの変化もないのはシルフィリアだけ、比較的無事な様子なのは、猿の獣人のダニエルとデニスである。
「いいから、私から離れろ! ダニエル、デニス!」
「わかりました。シルフィリア様、こちらへ」
「で、でも……!」
「殿下の指示です。他の獣人に近づいてはなりません。こちらに私達の組用に配備された森小屋がありますから、早く!」
猿の獣人のダニエルとデニスに連れられ、シルフィリアは森小屋へと向かう。
人族であり、緋色の瞳を持つ女奴隷であるシルフィリアが、レイファスの傍を離れるのは危険だ。森の中という人目のない環境下で、他の王族に遭遇した日には、何をされるかわかったものではない。
しかし、レイファスの狩場として指定された区域内の森小屋に行く分には、他の参加者達とかち合うこともないに違いない。
そう思っていたシルフィリアは、自分の考えが甘かったことに気が付いた。
そうだ、レイファスはずっと、シルフィリアに傍を離れるなと言い、何かに警戒している様子であったではないか。