亡国の奴隷姫と独裁国家の狼王子 ~処刑寸前に仇の王子の奴隷に落とされました~


「ライアス殿下ですね」

 シルフィリアの言葉に、男たちはギョッと目を剥いた。
 やはり、と思うと同時に、シルフィリアは、これで後に引けなくなったと、そう思う。

「お前、何故……」
「少し考えればわかることです。レイファス殿下に対抗できる後ろ盾があるのでしょう」
「これだから、下手に賢い女は面倒だ」
「どうするんだ。これがお手つきかどうか、確かめるだけじゃなかったのか!」
「……ライアス殿下には、女を生かしておくようにとは言われていない」

 男たちの目が、残忍なものへと変わり、シルフィリアは腕に力を入れるも、ダニエルとデニスがそれを離すわけがなかった。
 男達の中から、主犯と思しき者がソファから立ち上がり、シルフィリアの前に進み、その顎をつかんで上を向かせる。

「お前は馬鹿な女だよ。本当に賢ければ、何も知らないふりをしただろうに」
「これでいいのです」
「なんだと?」
「私は、屈する気はありません」

 そう告げると、シルフィリアは右足の、低いブーツの靴底を勢いよく地面にぶつけた。

 すると、靴の先から刃物が飛び出したので、それを蹴り上げるようにして男の腕を薙いだ。
 男の二の腕に傷がつき、悲鳴が上がったところで、シルフィリアは呪文を唱える。
 すると、彼女の足に仕込んだベルトの魔石が反応し、森小屋の室内に、一気に白い煙が蔓延した。

「なんだ、これは!」
「うっ、げほっ、これは……」
「催涙ガスだ!」

 男達は、目の痛みに慌てて息を抑え、涙に濡れる視界の中、窓を開けようと室内をうろつきだす。
 その間に、小屋の扉が開く音がして、彼らはシルフィリアが小屋の外に逃げ出したであろうことに気が付いた。

「ダニエル、デニス! 何、手を放してるんだ!」
「刃物を持っていたんですよ、危険でしょう!」
「げほっ、仲間割れしている場合か! あの女に逃げられたら、俺達の命はないんだぞ!」

 青ざめる男達は、慌てて扉の音がした方に向かい、小屋の外に出る。
 しかし、催涙ガスの影響で、視界が歪み、鼻が詰まり、まともにシルフィリアを追うことができない。

「魔法が使えたのか。くそっ、これだから人族は嫌なんだ!」
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