亡国の奴隷姫と独裁国家の狼王子 ~処刑寸前に仇の王子の奴隷に落とされました~
「姉さんがいいなら、僕はいいんだ」
弟のジルクリフは、たまに会いに来るようになった。
セディアスは連れていない。
シルフィリアがシグネリアの王族の秘薬をレイファスに使ったと知り、彼女に会いに来なくなってしまった。
「でも、不用意なことはやめてほしい。何度も危ない場面があったって、エーベルさんとアリアさんから聞いてる」
「……ごめんなさい」
「そんな顔しないでよ。それじゃあ、僕が姉さんをいじめているみたいだ」
肩をすくめる弟に、シルフィリアは微笑んだ。弟はいつだってシルフィリアの気持ちを軽くしてくれる。そんな彼は今、少しずつ仲間を増やしていっているところらしい。
「どう立ち回るにしても、味方は多い方がいいからね。姉さんが動けない分は働くから、任せてよ」
弟によると、レイファスの周りにいる人材は、二種類に分かれるらしい。
ラグナ王国の貴族出身の者と、彼に滅ぼされた国の出自の者達だ。
意外にも後者の方がレイファスに対して強固な忠誠を抱く傾向にあり、前者は数も少なく、主人と距離のある者が多いのだという。シルフィリアを襲った、猿の獣人であるダニエルとデニスのように。
「最初からそれを聞いておきたかったわ」
「僕だって、ようやく調べがついたところなんだよ。姉さんの周りは動きが早すぎるんだ」
「あなたはうまくやっているのね?」
「……うん。僕はね」
苦笑いをするジルクリフが暗に指し示すものに、シルフィリアは憂いを帯びた顔で目を伏せる。
「多分ね、こういうことだと思うんだ。殿下に拾われた者達は、殿下から何かを知らされている。けれども、貴族出身者達はそれを知らない」
「だから、距離が生まれる?」
「そう。そして、何故か僕達は、同じく殿下に拾われた立場のはずなのに、扱いが違う」
その理由は、弟にもまだわからないのだという。
シルフィリアにもわからなかった。どうして、彼は、彼女を――彼女達を、特別扱いするのだろう。
「……だけどさ。本当にレイファス殿下の味方でいる人は、果たして何人いるだろうね」