亡国の奴隷姫と独裁国家の狼王子 ~処刑寸前に仇の王子の奴隷に落とされました~
十四歳の弟の意外にも冷めた発言に、シルフィリアが目を瞬くと、ジルクリフは顎に手を当てながら、思案の海に沈んでいる。
「多少の秘密を打ち明けられた程度で、国を滅ぼされて、果たして忠誠を誓うものだろうか」
「ジル」
「秘密の内容に、彼らを絡めとる何かがある。とはいえ……思うに、レイファス殿下は目的のため、最小限のことしか周りに伝えていない。それは、薄氷の上を歩くような行為だ。戦略上、よくない。誰も信用せず――ああいや、そうか。アリアさんだけは知っているのか」
シルフィリアはその言葉に、胸が苦しくて、息が詰まるような感覚を覚えた。
自分たちの知らされていないことを、アリアだけは知っている。
シルフィリアは、彼の側近くに常にいるけれども、決して、彼に信用されているわけではない。
ふと、会話が途切れたことに気がついて弟のほうを見ると、彼の碧い瞳に、泣きそうな顔をした緋色の瞳の姫君が映っていて、シルフィリアは慌てて弟から顔をそらした。
最近、彼のこととなると、こんなふうにすぐに心がこぼれてしまうのだ。
感情を隠すのは得意ではない方であったとはいえ、これは自分でもさすがにひどいと思っている。
しかも、弟の前でのことだと思うと、顔から火が出そうだ。
「あー、うん。姉さんの意向は、うん、その、重々わかったからさ。相当、大切にされているだろうこともね……」
「ジルクリフ」
「ごめんって。……でも、姉さん。これはいよいよ、危ないかもしれないよ」
首をかしげ、金糸を揺らす美しい姉に、ジルクリフは固い顔で告げる。
「レイファス殿下は、何かをしようとしている。きっとそれは、あと数年もたたないうちに実行される予感がある。そして、彼はそのとき、ちゃんと配下達を巻き込むつもりはあるんだろうか」
ジルクリフの言うことは、ただの予想だ。
けれども、シルフィリアはそれを、思い込みだと一蹴することができない。
寡黙な主人の青い瞳に宿った諦観が、彼女にも、終わりが近いのだと知らしめているからだ。
彼女を拒絶しながらも、孤独の色を湛えている深い青色が、シルフィリアの心をねじ上げている。
「姉さん、気を付けて。レイファス殿下がそれを始めたとき、彼が誰にも言わず、誰も伴わず、すべてを置いていくつもりなら――意外にも、何も知らされていない僕達が一番の彼の味方で、他には誰も残らないかもしれないよ」