亡国の奴隷姫と独裁国家の狼王子 ~処刑寸前に仇の王子の奴隷に落とされました~
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元々、母ニコラはラグナ王国の出身ではなく、近隣諸国の一つ、ガルフォード帝国で生まれた貴族令嬢だった。
女帝ガラナの支配する、爬虫類族の大帝国ガルフォード。
そこは女も立身出世を望むことができる場所で、ニコラは貴族としては下から二番目、子爵家の出であったにも関わらず、その冷静さと知力により、一代伯爵にまで成り上がっていった。
彼女は二十八歳にして、ガルフォード帝国の外交官となり、世界を飛び回るようになったのである。
そして、世界で最も繊細な扱いを要するラグナ王国への使者を任されるほどに、出世してしまった。
外交官としては若く、美しく知的な彼女の姿に、ラグナ王国の貴族は魅了された。
白蛇の化身たる彼女の白銀の髪は、彼らの目を奪った。
忌避していた鱗は、煌めく宝石として彼女を彩り、その透き通るような青い瞳に映らんと、ラグナ王国の貴族達は、競うようにして彼女に話しかける。
そして、当然のように、ラザックは彼女を己のものにした。
半ば無理やり、彼女を奪った。夜会で強引に彼女を口説き、寝所に連れ込み、己の妾にしたのである。
ガルフォードの女帝ガラナは、当然憤った。ガルフォード帝国の外交官にこの仕打ち、戦争になっても仕方のない行為である。
しかし、それを止めたのは、他ならぬニコラであった。
「今は、そのときではありません。職を離れる不肖の配下を、どうかお許しいただきたく」
当人にそのように言われ、女帝ガラナはこのとき引き下がった。
大国ラグナは勢いを増し、近隣の小国を喰らい尽くすように蹂躙し、勢力を拡大していた。
ガルフォード帝国も小さくはない国だが、今のラグナに正面から打ち勝つことができるかというと悩ましい。
また、ラグナ王国の中枢部にガルフォード帝国の手の者が居るということは、帝国にとって悪いことではない。
ニコラの決意により、事態は大きくならないまま、ただラザックの妾が一人増えただけという結末で片付けられた。