亡国の奴隷姫と独裁国家の狼王子 ~処刑寸前に仇の王子の奴隷に落とされました~


 しかし、ニコラがラザックの妾になったからといって、ラグナ王国における爬虫類族への差別意識が消えるわけではない。
 かたやニコラの存在を利用したい者達、かたやニコラの存在を排除したい者達。
 帝国出身の白蛇の妾の存在は亀裂を生み、派閥争いを煽っていく。

 そのように各人の思惑が行き交う中、二十代前半であった国王ラザックは、手に入れた年上の妾に、あられもないほど溺れた。

 他の獣人とは違う、一見すると冷徹にも見える美しき白蛇の化身。
 その風貌の中に、正義感と配慮、優しさと、熱く燃える意思が垣間見えることに、これ以上なくはまり込んだ。
 普段は、国王であり夫であるラザックを冷たくあしらう氷のような女が、閨ではその白い肌をほてらせ、目を潤ませ、甘い声を漏らしながら、悔しげにこちらを見上げてくる。
 その抗いがたい魅力に、屈服させる快感に、黒の獅子はこれまでにないほど愉悦した。

 ラザックのあまりの執着に、派閥争いをしていた官僚達は口をふさいだ。
 他の王妃達ですら、これを邪魔すれば命はないものと理解し、息を潜める中、しかしニコラは、ラザックに似ても似つかない真っ赤な狼を産んだ。

 ラザックはそれを目にした瞬間、獅子の爪でニコラを薙いだ。

 誰にも止められなかったそれに、ニコラは血を吐きながらも、真っすぐに、返り血で染まった黒い獅子を見据える。

 ニコラは、産んだばかりの自分の子が、間違いなく目の前の男の子であることを知っていた。
 産みたかったわけではない。なんなら、他の男の子を仕込んでもよかったくらいだ。

 けれども、他の男が触れる隙などなかった。

 ――あれほどに囲い込んでおいて、まだニコラが信じられないというのか。

 ふと、ニコラの心に、ある考えが浮かんだ。

 この男は、獣人の頂点に居るとさえ言われる、ラグナ王国の国王。その男ですら、振り回されているのだ。

 勝利を願うこと、全てを奪って己のものにしたいという欲望に振り回されている。
 獣としての誇りが彼の目を曇らせ、本当に欲しいものを見失わせている。

 その行く先はどこなのだろう。
 この男が求めるものは。
 生まれたばかりの我が子の道は。

「……あなたはが欲しいもの、それは――」

 このとき、ニコラがラザックに残した言葉によって、レイファスは生かされることとなる。
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