亡国の奴隷姫と独裁国家の狼王子 ~処刑寸前に仇の王子の奴隷に落とされました~
4 閨
「夜伽の準備をいたします」
牢から連れ出され、豪奢な――シルフィリアにとっては――部屋に連れてこられた彼女は、迎える侍女の頭にそう告げられた。
身をこわばらせるシルフィリアに、侍女達の表情は固く、何を思っているのか読み取ることはできない。
それでも、何かを読み取ろうと、周囲や侍女達の様子に目を凝らす。
そして、鏡の前に連れてこられた彼女は、自らの有様に、羞恥で頬を赤くした。
処刑前に湯あみなどの簡易的な身支度をされたとはいえ、長く牢に入れられたことで、髪は乱れ、肌も荒れている。
心労で食事が喉を通らず、よく眠れていなかったこともあり、顔はげっそりとしていて、目の下にはクマができている。
対する侍女達は、肌艶もよく、髪も整えられていて、血色もいい。王宮勤めの侍女をしているということは、それなりの身分を有した者達なのであろう。仕草も優雅で、シルフィリアは、今の自分がそのような者達に囲まれていることに惨めさを感じずにいられなかった。
俯いたシルフィリアに、侍女長は彼女が抵抗を考えているとでも思ったのか、静かな声で苦言を呈した。
「余計なことは考えないように」
「……」
「弟達が大切でしょう」
手を固く握りしめたシルフィリアに、侍女長は息を吐く。
そのため息一つが、彼女の弱った心をえぐるけれども、それを悟られまいと必死に唇をかみしめた。
彼女が今そこに立っていられるのは、今にも折れそうな矜持が故なのだ。
それを失ってしまえば、きっと崩れ落ち、立ち上がることができなくなる。
それから、シルフィリアは湯浴みをさせられ、髪にも体にもオイルを揉み込まれ、薄手のナイトウェアを着せられた。そうして、訳の分からないまま、とある寝室に置いて行かれる。