亡国の奴隷姫と独裁国家の狼王子 ~処刑寸前に仇の王子の奴隷に落とされました~
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その三日後、歩けるようになったレイファスは、父王の元へと呼ばれた。
満身創痍にも関わらず牙を向く息子に、ラザックは嬉しそうに口の端を歪める。
そして、黒の獅子王に連れて行かれたその先では、信じられない光景が待っていた。
「これは、私の手の内にある」
そう言ってラザックが見せたのは、保管の魔道具に入れられた伯父ニーズヘッグの姿だった。
幾重にも魔法がかけられたガラス張りの円柱に、液体が満たされ、伯父の体が保管されている。
「人でなしが!」
「そうだ。我らは人ではなく、獣人。そも、一人にうつつを抜かすは人族の在り方よ」
レイファスはラザックの言葉を聞いているのかいないのか、伯父の体に取り縋るように円柱に触れる。
液体に浮かぶ伯父の口には、呼吸器がつけられているが、意識はなく、息をする速度もあまりにも緩やかに見える。
「まだ、死んではおらぬ」
疑問に答えるようなその言葉に、レイファスは憎き王を振り返る。
「魔法の力で死を遠ざけている。時を緩め、全ての流れを堰き止めた」
「……何故」
「これを開ければ、直ちにお前の伯父は死ぬ」
レイファスは、理解した。
これは、人質だ。
レイファスを繋ぎ止める鎖。たとえ二度と会えなくとも、言葉を交わすことも、あの優しい瞳で見てもらえることがなくとも、レイファスが伯父を見捨てることができないことを、ラザックは知っているのだ。
「何をしろと」
「戦に出るがいい」
息を呑むレイファスに、ラザックは歪んだ笑みを浮かべる。
「不肖の息子よ。お前は獣人だ。誰にも囚われず、欲を満たし、生を喜び、今を生きるのが我らのあり方よ。だというのに、お前は白蛇に囚われ、生き方を誤っている」
悠然と室内を歩くラザックに、レイファスは伯父の傍で立ち尽くしたまま、動くことができない。
「敵を屠れ。弱者を踏みつけ、力を誇示しろ。我らラグナの生き様を、そうして世界に刻み込む」
「そんなのは、間違っている!」
「お前の母も、そう言っていたな」
びくりと体を震わせる赤髪の若き王子に、ラザックは嗤った。
「だが、この体たらくだ。お前もそうだ。一人に執着した結果、こうして私に囚われている」
怒りで震えるレイファスに、ラザックは機嫌がよさそうなそぶりで、その黒い目を細めた。
「お前は弱い」
王が部屋を出た後も、レイファスはただ、伯父の傍で床を見つめていた。