亡国の奴隷姫と独裁国家の狼王子 ~処刑寸前に仇の王子の奴隷に落とされました~
それから、レイファスは戦に出るようになった。
そもそも、ラグナ王国が関わる戦は、そのほとんどがラグナ王国による制圧戦である。
ラグナ王国は、国王ラザックの意思により、すべての近隣諸国をラグナ王国に従わせようと、侵略を続けているのだ。
レイファスは当然ながら、そのような戦に賛同できず、初めはあまり力を振るわず、できないふりをし、戦果を上げないようにしていた。
それでも、彼が手を鈍らせると、部下に危険が及ぶ。それを助けるために獣化すると、彼の爪は強く、魔法は鋭く、敵は紙屑のように容易く裂けてしまう。
それが受け入れられず、初めの頃は毎日のように吐き、うなされる日々が続いていた。
しかし、あるとき、捕虜となった獣人の少女が叫んだのだ。
「人でなし! こんなの、戦じゃない。狩りを楽しんで、なぶっているだけじゃない!」
レイファスはそのとき、ラグナ王国の攻め方があまりにも苛烈で、しかも、長く戦が続くような、非効率的なやり方をしていることに気がついた。
ラグナの兵士達もまた、獣の血が色濃く出た獣人なのだ。
国王ラザックの旗印の元、獣の本性に従うことをよしとする荒くれ者達が多いラグナ国王軍は、戦いを楽しみ、弱者を追い立てることに悦びを見出していた。
血を尊ぶことから、女を戦場で襲うことだけは厳しく禁じられていたが、それ以外はおよそ制御されていない。
レイファスは、そういったラグナ王国の事情を知らなかった自分に気がついた。
すべてを知らず、ただ伯父の庇護下で育った自分。
父から放置され、今となっては脅されながら、戦場に駆り出されている。
流されるように生きてきた己に、見るべきものがまだあることを、レイファスははっきりと自覚したのだ。
このとき、レイファスに向かって物申した少女は、アリアという名前であった。
柔らかい茶色の髪をした、リスの獣人の少女を、レイファスは引き取った。そしてそのまま、侍女として育てることとする。