亡国の奴隷姫と独裁国家の狼王子 ~処刑寸前に仇の王子の奴隷に落とされました~
そこは、先程シルフィリアが豪奢だと感じた先程の部屋の二倍は広い寝室だった。
調度品は上品で、派手すぎない繊細な意匠が、その価値の高さを感じさせる。
おそらく、この国の第四王子の寝室なのであろう。
シルフィリアは、広い部屋にただ一人立ちすくみ、そして、息を吐いた。
あれだけの噂の持ち主だ。
部屋には既に何人もの奴隷がいてもおかしくはないし、むしろ、シルフィリアが部屋に着いたときには、最中であることも覚悟していた。
しかし、部屋には大きな寝台やソファがあるのみで、人の気配はない。
寝室の中央でキョロキョロと周りを見渡すと、彼女の緋色の瞳に、白い花が映った。
五つの花弁を有する白く美しい花が、窓際に飾られている。シルフィリアがよく知る花だった。薔薇のように目立つわけではなく、百合のように強い香りを持つわけではないが、少ない水で生きながらえることができる、凛とした透明感のある美しさを持つ、シグネリア王国の国花――フィリアの花。
その花に吸い寄せられるように近づいたシルフィリアは、ふと、自分のあられもない姿に気が付き、少し迷いながらも、大きな寝台の片隅に潜り込んだ。
何しろ、着ているナイトウェアが、本当に薄手なのだ。
服としての機能を果たしていない。
視線にも寒さにも弱いこの服で一体、何が守れるというのだろう。
整えられた毛布をできるだけ乱さないようにして、シルフィリアは体を毛布の中に沈める。
そのふかふかな寝台に、毛布の暖かさに、つい目頭が熱くなった。
十七歳の彼女には、ここしばらくの出来事はあまりにも重すぎた。
滅びた国。
帰らぬ父と母。
亡くなったとされる妹達。
生き残った弟と従兄弟、牢での生活……。
(こんなところで安心したらだめよ。今からもっと……ひどいことになるんだから……)
彼女が己の手を握りしめ、覚悟を新たにしたところで、先ぶれのベルが鳴り、乱暴に扉が開いた。