亡国の奴隷姫と独裁国家の狼王子 ~処刑寸前に仇の王子の奴隷に落とされました~
「――それでは、だめだ!」
轟くその叫びに、一気に民衆は静まり返った。
今まさに、命を救われんとする狼王子が、なりふり構わぬ様子で、緋色の瞳の姫君と向き合っている。
「それでは、だめだ。ラグナ王国は、滅びたのだ。あとに起こるは人族の国のはずだ!」
「ですから、人族の理に従い、あなたの処遇を決めるのです」
「それでは足りない! 獣人の居ない国を作るべきだ!」
それが、レイファスの望みであった。
彼が自分の思いを託したもの。
人族の理だけが存在し、獣人は忌避される世界。
望むのは、獣人だけを尊ぶラグナ王国の、対極に存在する国。
「獣人は、殺す。欲を抑えないことを尊び、ひとときの出会いですべてを終わらせてしまう。ラグナ王国がそうだった。獣を極めた国は、一人を大切にし、尊ぶことを許さない!」
「だから、新しい国を作ると?」
「そうだ!」
「では何故、そこにあなたが居ないのです」
貴賓席に居る姫君の疑問に、レイファスは固まる。
驚愕に震え、狼狽えている赤髪の狼王子。
彼を見つめる緋色の瞳は潤み、しかし決して目を離しはしない。
「一人を大切にする。それが新しい国の理のはず。なのに、どうしてあなたを大切にすることを許してくれないの。あなただって、――獣人だって、人間なのに!」
それは、レイファスが考えてこなかったことだった。
新しい世界に、自分の居場所を創る。
とても甘美な響きのそれは、レイファスの念頭になかった。
彼の手は血で汚れている。
幸せに満ちているはずの新しい国に、そんな汚れた存在は不要だからだ。
「許されない。私は、許されてはいけないんだ」
美しい理想を掲げ、謀反人の第四王子という汚れを排し、国を始める。
それが必要なことなのだと、レイファスは説く。
静まり返った壇上で、ただひたすらに、己の処刑が必要であることを訴える。
ラグナ王国の最後の王族として責任を取る者が必要であること。
人族の強さを示すことの重要性。
心がきしみ、本当にそれでいいのかと自問しながらも、必死に言いつのる。
けれども、本当はわかっているのだ。
レイファスも、人間だ。
それは彼自身が父王に言ったことで、誰よりも彼がよくわかっている。
だけど、狼は悪いことを沢山したのだ。
多くの者を傷つけ、目の前の彼女を沢山泣かせてきた。
たとえ彼女がそれを許しても、レイファスは自分を許せないのだ。
それにきっと、あの人だって――。
「レイファス」