亡国の奴隷姫と独裁国家の狼王子 ~処刑寸前に仇の王子の奴隷に落とされました~
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人間の国を作る。
これはジルクリフの提案によるもので、シルフィリアが受け入れたものであった。
話を聞いたとき、シルフィリアは弟に、創造主レグルスから聞いたことを伝えた。
獣人の成り立ち。
緋色の一族が生まれた訳。
禁忌と呼ばれた治癒魔法。
そして、レグルスとイリアスの想いと懸念。
すべてを聞いたとき、弟はうーんと首を傾げた後、にこりと笑った。
『未来に丸投げしよう!』
目を丸くするシルフィリアに、弟は両手を上げる。
『だって、すべてを解決するなんて到底無理だもの。僕らは、そんなふうに万能な存在じゃない。特に僕とか、まだ十四歳のお子ちゃまだし、無理だって』
『で、でも。悪いことが起こるかもしれないって、わかっているのに』
『それはすべて予想に過ぎないしさ。それに、起こったことについて考える機会をあげるのも、僕らの役割じゃないかな。それとも姉さんは、子ども達の行く道からすべての小石を取り払うために、獣人と人族の片方だけを選ぶ――子ども達を間引きするの?』
息を呑むシルフィリアに、ジルクリフはほほ笑む。
『そうせざるを得なかった時代もあるかもしれない。でも、今は違うだろう?』
獣人の席巻するこの世界。
それはきっと、隕石のもたらした呪いによって、滅びゆかんとした人類にとって必要なことだったのだろう。
命を繋ぐために、強く逞しく、多くを考えずにただひたすらに生を尊ぶことが、人間を存続させる強い力となった。
けれども呪いを克服し、数を増やした今なら、人間の国をつくることができる。
そして、人類全員で、未来を作っていくことができるはず。
『先のことはわからない。だけど、みんなで向き合えばいい。僕達にできるのは、命を繋ぐこと。過去を伝えて、みんなで問題に立ち向かうことだ』
『ジル』
『生きて、人類みんなで考えよう。どんな結果になったとしても、その道のりほうが、きっとずっと楽しい。姉さんだって、レイファス殿下が生きていてくれたほうが、人生楽しいだろ?』
溢れる涙に、弟が呆れながら笑っているのがわかった。
我が弟ながら、この子はなんてやっかいなのだろう。
あどけない顔をして、すべてを見透かしてくる。
ずっと重かった。
滅ぼされた国、亡くしたことの恨み、知ってしまった事実への責任。
そして、それらとは正反対に位置する、熱い想い。
けれども、すべてをシルフィリア一人が背負う必要はないのだ。
生きてさえいれば、共に悩み、考えることができる。
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貴賓席に立つシルフィリアは、改めて、断頭台近くの壇上に立つ弟の姿を見た。
ジルクリフの言う、人間として生きることができる国。
それは、レイファスが作りたかった国ではない。
亡きシグネリア王国とも違う。
けれども、きっといい国になるはずだ。
緋色の瞳に映る新たな国王は、それを信じて疑わず、民草が新国王を見る視線は、何よりも熱い。
「私が、そして姉が、この国が、それを証明してみせる。だから、第四王子にはそれを誰よりも近い場所で見ていてほしい。故に、私は姉の提言どおりの内容をレイファス=ヴィオ=ラグナの処遇として定め、この国を始める。――さて。私の判断に、異論がある者は居るか!」
ワッと勢いよく喝采が上がった。
地面が揺れたようなその勢いに、新国王は一瞬目を瞬いた後、あどけない顔で笑った。
それを見た隣に居る黒の大蛇は、ゆったりと姿を解き、人型の女帝へと変化する。
そして、新国の成立を祝うがごとく少年を抱きしめた後、少年の額に祝福の口づけを落としたので、民衆はさらに大きく沸いた。
女帝ガラナは、ガルフォード帝国が彼の作る国を肯定するという意を、皆の前で広く示したのだ。
見目麗しく、将来有望な出来のいい十四歳の新国王は、大先輩である女帝からの贈りものに目を丸くする。
そして、「姉だけでなく私まで贈りものをもらうことになるとは思いませんでした。ありがとう存じます」と、照れたような、嬉しそうな顔で頬を緩めた。