【完結】異世界シンママ ~モブ顔シングルマザーと銀獅子将軍~

42.抱擁※


 それからあとは、大変だった。夜になってしまったためそのまま侯爵邸に泊まることになったが、初めての3人揃っての夕食でココが大興奮してしまい、収拾がつかなくなった。

 ケイの席とヴォルクの席を行ったり来たりして、ヴォルクの膝に座って甘えるわ、レダにジュースをおねだりするわでケイは何度制止したか分からない。
 ヴォルクは嬉しげで叱らず、レダも「あらあらまあまあ、お嬢様ったら」とさっそく甘々なばあや(・・・)ぶりを発揮してくれたりで、結局ケイが叱った。そしてココに「ママやだ!」と言われた。子育ては理不尽だ。

 そんなこんなで和やか……というより、もはや騒がしい夕食を終え、ケイがココと客間に下がったのが夜8時頃。
 その2時間後、ケイは書斎の隣にあるヴォルクの私室の前に立っていた。


「お邪魔します……」

「ずいぶん早かったな」

 ノックをしておずおずと室内に入ると、書物を読んでいたヴォルクが顔を上げた。湯を浴びたのか小ざっぱりとしたいでたちになっており、本を置くと立ち上がる。

「いや、ココが興奮して絶対寝ないと思ったんですけど、なんでかいつも以上に寝付きが良くて。なんだろ、牛乳も飲んでないのに」

 ケイが首を傾げると、ヴォルクが微妙な苦笑を浮かべる。ケイに近付き、ヴォルクは小さくため息を吐いた。

「夕食に、ローネ菜のスープが出ただろう」

「ローネ菜……ああ、あのレタスもどき。ココがごくごく飲んでましたけど」

「あの野菜には、入眠効果がある。夜にぐずる子供によく出す夕食の定番だ」

「えっ。……よ、用意周到……」

「私の指示ではない。……レダが、妙な気を遣ったな」

 ヴォルクがなんともいえない顔で笑う。まさか彼の仕業かと思ったら、ニコニコと穏やかに笑っていた老侍女頭の策略だったとは。
 そんなことを考えられていたとはいざ知らず、ケイの頬に血が上る。

「ソコルといい、よほど我々は応援されているらしい」

「はは……」

 ケイは乾いた笑みを浮かべ、緊張をほぐすように室内に目をやった。
 ヴォルクの私室は、質実剛健の家風の主らしく大貴族のわりには落ち着いた調度だった。王宮の客間の方がよほど豪奢できらびやかだ。
 だが紺を基調とした落ち着いた色合いはケイの目にも好ましく、初めて入る部屋だがヴォルクらしいと思った。

 客間に下がる前に、ココが寝付いたら自室に来てほしいとヴォルクに告げられた。
 ケイがもじもじと立ち尽くしていると、正面にヴォルクが立つ。手を伸ばされて頬に触れられ、ケイはぴくりと身じろいだ。
 キスされるか、抱きしめられるか――そう予感して目を閉じると、そのまま頬を撫でられてケイは薄目でヴォルクを見る。

「……ありがとう。この世界に残ってくれて」

「え……?」

 予想外の言葉にケイは目を瞬いた。ヴォルクはランプの灯りを背に、穏やかな目でケイを見下ろしている。
 早とちりしてキス待ちしてしまった恥ずかしさにケイは内心で悶絶しつつ、ゆっくりと首を振る。

「私が残りたいから残ったんですよ。私こそ……ありがとうございます。ココと、家族にしてくれて」

「私がそれを望んだのだ。そなたが伴侶となってくれるのか……。私には過ぎたほどの幸福だな」

「そんな大げさな。あとから気の迷いだったって言われても困りますからね、ヴォルクさん」

「それはないな。……ああ、それと――」

「……? んむ」

 ケイの唇にヴォルクの親指が押し当てられた。見上げると、ヴォルクが目を細める。

「……ヴォルク、と」

「え……」

「敬称はいらぬ。……ヴォルクと。そなたは侯爵夫人になるのだぞ。使用人の前で威厳を見せてもらわねば困る」

「え。ええ~……」

 ふっと笑まれ、ケイは至近距離からの被弾にしどろもどろになる。ちらっと見上げると、ケイの発言を待つヴォルクの顔が。

「それ、どうしても直さないと駄目ですか……? 無理そうなんですけど……」

「少しずつで良い。まずは、二人のときから――」

「…………。ヴォ、ヴォルク……」

 頬を撫でているのと逆の手が、肩から腰へと滑り落ちた。引き寄せられながら顔を近付けられ、ケイはなかば強制的にもう一度口を開かされた。赤い顔で、かすれた声で。

「ヴォルク……」

「ああ。……来てくれたということは、期待しても良い……ということだな?」

「そっ――、……んっ……」

 ケイがうなずくよりも早く、顎を取られ、唇が重ねられた。



 立ったまま抱き合い、濡れた音を立てながら互いの唇を堪能する。唇の柔らかさを楽しむようについばんだあと、どちらともなく口を開くと重なりは少しずつ深くなった。

「……はぁっ……、ん、んっ……。は……ぁ」

 舌を差し出すと、心得たように絡め取られる。粘膜を擦りつけ合い、口蓋の上をくすぐられるとくすぐったさに似た刺激が走りケイは肩をよじった。唇を外すと湿った息を吐く。

「はっ……。……ヴォルクさん、キス上手ですよね……」

「きす……。接吻か?」

「せっぷ――。は、はい。なんか……やらしいなって」

 聞き慣れぬ言葉に赤くなりつつうなずくと、親指を浅く唇に差し込まれた。ケイの唇をなぞりながら、ヴォルクが湿った息を吐く。

「そういう気分でしているから、その気になってもらわないと困る。……そんなことを褒められたのは初めてだな」

「そうですか?」

「そうだ。それより――またヴォルクさんに戻っている」

「あっ。ん、む……ッ!」

 親指で歯列をこじ開けられ、舌が深く差し込まれた。格段に深くなったキスにケイがヴォルクの胸にしがみ付くと、ヴォルクがのしかかるようにかぶり付いてくる。
 首筋がきつく反らされ、ケイは吐息で悲鳴を上げた。

「――ッ、ぷはっ! 首……! ごめんなさい、つりそう……!」

「あ……ああ、すまぬ。そなたが小さいから――」

「私、平均ど真ん中です。ヴォルクさんが大きいんですよ……!」

 首を押さえて控えめに抗議すると、ヴォルクがようやく放してくれた。唇を濡らした彼は、「また言った」と笑うとケイをすばやく抱き上げる。

「――うひゃあっ!?」

「……そうだな。私も正直、首が疲れるから移動しよう」

「ちょっ……怖い怖い怖い! 下ろしてください……!」

 お姫様抱っこだなんて、まあロマンチック……などと思う余裕はまったくなく、急に足元を失ってケイがヴォルクに縋りつく。大股で部屋を横切ると奥に置かれた寝台にトス、と下ろされケイはヴォルクを振り仰いだ。

「急に怖いですよ……!」

「すまん、一度やってみたかった」

「やらなくていいです。重いし普通に恥ずかしいですよ……!」

「どうという重さでもない。……ココは喜んでいたが」

「子供と一緒にしないでくださいって……。ブランコでも余裕で酔うんですから」

 ため息で抗議すると、ヴォルクはきょとんと瞬いた。その悪びれない様子にケイもつられて苦笑してしまう。

「もう……」

「だが、これでしやすくなった。……きす(・・)を」

「……ん……、……もう……」


 ベッドボードを背にしたヴォルクに抱きしめられると、その脚の間に座り込んだケイとヴォルクの目線が近付く。キスされながら服越しに背中や腕を撫でられ、胸が期待に高まった。先日与えられた深い快楽を思い出し、膝頭がもぞ…と動く。
 ケイの後ろ髪を撫でたヴォルクはしみじみとつぶやいた。

「髪が伸びたな……」

「あ……そうですね。もう半年……? 切ってないですから」

「ココの前髪は切るのにな。……そうだ、いつぞやは潔いほど短くなっていたな」

「や、やめて下さいよ。あれ本当に大失敗で申し訳なかったんですから」

 いつかの失敗を持ち出されて赤くなると、ヴォルクがふっと笑う。……いつの間にか、よく笑うようになった。
 ケイの髪もこの世界に来たときの結べなかった長さからアップができるまでになり、ココは少しだけ背が伸び、ヴォルクは笑顔が多くなった。たった半年あまりでも、少しずつ確実に、3人の間には降り積もった時間があった。

「このまま伸ばすのか?」

「そうですね……。特にこだわりもないし、こちらの女の人みんな長いですしね。私、空気は読む方なんで」

「空気を読む人間は単身で王宮に乗り込んできたりはしない」

 苦笑しながらチュニックを脱がせられ、ケイはバンザイの姿勢で押し黙った。
 ……返す言葉もない。そして脱がすのは慣れているが脱がされてるのには心底慣れていない。
 下は自分で脱ぐと、下着姿になったケイにヴォルクが目を瞬いた。

「これは、元の世界の肌着か……?」

「え。……あ、はい。こっちとは違い…ますよね」

 ケイにとってはなんてことのないブラとショーツだが、ヴォルクの目には新鮮に映ったようだ。 
 服はファストファッションばかりでろくに金をかけないが、下着だけはそこそこの額をかけていた。なぜならそれなりの物を買わないと肩が凝って仕方ないのだ。安物買いで結局着けなくなったブラが何枚あることか。
 
 この世界に飛ばされたときに身に着けていた、奇跡的に上下揃っていたチェリーピンクのレースのセットにヴォルクが口元を覆う。白く盛り上がる谷間と濃色のレースの対比に彼は眉を寄せてつぶやいた。

「煽情的だな……」

(洗浄……? 線上――。あっ、煽情!?)

 何を言われたか分からず頭の中で漢字を連想したケイは、当てはまるものに思い至って顔を染めた。
 ヴォルクにとっては刺激的だったかもしれないが、決してそういう気持ちで着けていたわけではない。期待しなかったというと嘘になるが、これではまるでヤル気満々で部屋に来たようではないか。

「いや、あの、これ全然大人しい方ですから……! 元の世界にはもっと色っぽいのありますし、こんなの全然――」

「もっと……!? そなたが着るのか?」

「着ません着ません! 必要ないですし……!」

 焦って余計なことを言ってしまった。目を剝くヴォルクに首を振ると、ケイはなんとなく縮こまって下着を隠す。その腕をやんわりと広げると、ヴォルクが少し獰猛に笑った。

「……それはぜひ、見てみたいものだな」

「……っ。ん……」

 ブラ越しに胸に触れられ、ケイの口から吐息が漏れる。ケイはそろそろと手を伸ばすとヴォルクのシャツに触れた。ボタンを外すとヴォルクがじっと見つめる。
 その視線に耐え切れず、聞かれてもいないのに口を開いた。

「自分だけは……恥ずかしいですから。はい手を抜いて――、あっ」

 ヴォルクのシャツを脱がせ終わった瞬間、引き寄せられて背中から抱かれた。
 ケイの背中がヴォルクの胸板と密着すると、間髪入れずにブラに手が差し込まれる。先端をかすめた指にケイはびくっと肩を震わせた。

「あ――」

「……相変わらず、手に余るな」

 中途半端に差し込まれた長い指が、ふくらみを持ち上げてその質量を確かめるように揺らした。背を少し倒されるともう片方の手が背中をさまよう。
 外し方が分からないだろうか――。そんな心配は、杞憂だった。
 ヴォルクは器用に背中のホックを外すとピンクのブラを足元に追いやる。そしてケイを引き寄せると背後から胸を揉みしだいた。

「んっ……、ふ……」

 背中に熱いヴォルクの肌。肩口に、少し熱を帯びた吐息。節張った長い指が白いふくらみに食い込むのがケイの眼下に生々しく映った。
 たわわな重みを楽しむように揺らされ、その先端を指の腹でかすかに撫でられるとびくっと鳥肌が立つ。立ち上がった先端を摘ままれ、ケイは熱い息を漏らした。

「はぁ……っ。……やだ、胸……」

「痛いか……?」

「そうじゃなくて……恥ずかしいんですよ……」

 ケイが首をひねると、晒されたうなじにヴォルクが口付けた。弱点への攻撃にケイはまたびくりと体をすくませる。

「アッ……! や、やぁ……。首は……ダメ…っ。あ、痕つけないで……。この前、大変だったんですから」

「この前……? つけてないが」

「ついてました……! 覚えてないんですか!?」

「……覚えてない。それだけ、そなたに溺れていたのだろう。……面倒をかけた」

 ラスタに指摘された恥ずかしさと、その後隠すにあたっての大変さを思い出して恨みがましく見つめたが、しれっと返されてケイは言葉を失った。
 そっぽを向くと、じわりと湧いた喜びを隠すように口を尖らせる。

「……も、もうっ……。――あっ! だから、ダメ……ッ、やぁ……、ですって――」

「……本当に弱いな。では、耳は……?」

「んっ……!」

 後ろから耳の上を()まれ、ツ…と耳たぶまで舌が這った。そのまま何度か繰り返されると、耳元で上がる水音に耳から頬がカッと熱くなっていく。
 愛撫から逃れようとどんどん前のめりになるケイを引き戻し、ヴォルクはうなじに口付けたまま手を前に回す。横座りした脚を撫でるとショーツの上端を割り、ゆっくりとその指を差し込んだ。

「あ……、あっ……!」

「……濡れているな」

「……ッ!」

 ヴォルクの指が、中でぬるりと滑った。それは先日のような物足りないものではなく、今すぐにでも挿入できそうなほど。中指で亀裂をゆっくり擦られると、さらにチュプチュプと水音が聞こえた。
 なんという現金な体。ケイは首筋まで真っ赤にすると消え入りそうな声でつぶやく。

「き……期待…してました……。この前……気持ち、良かったから……」

「……っ」

 長年、濡れにくい、濡れない体質だと思っていたのにたった一回の交わりでこれだ。ケイの固定観念を覆すほど、前回の夜の経験は鮮烈だった。
 ヴォルクは息を詰まらせたあとため息を吐き、糸を引くケイのショーツを脚から取り去る。そして自身も下履きを脱ぐとケイを引き寄せた。

「あまり、可愛いことを言ってくれるな……。暴発させるつもりか」

「そんっ……、アッ……!」

「さきほども接吻を待っていたな。……可愛かった」

 ずる、と亀裂を撫でられケイは悲鳴を上げた。そこの状態を知らしめるように指がなめらかに滑り、芽を指腹がかすめる。膨らんだ芽をゆっくりと指が擦り、ケイは思わず手で口を覆った。

「んん……っ! ……は、ふ……っ」

「ケイ……? なぜ声を抑える」

「だって……聞こえちゃう……っ」

 ここは、広大で隣室が誰かも分からぬ王宮ではないのだ。同じ建物内にはソコルもレダも他の使用人もいる。
 首を振ったケイにヴォルクはふっと笑うとケイの手をどけ、代わりに口付けを浴びせかける。

「うちの使用人なら、こんな夜に主の寝室になど近付かない。もし聞こえたとしても……見て見ぬふりをするようしつけらている。使用人とはそういうものだ。慣れろ」

「無理です……! あ…っ、ふぅ……、ん……!」

 キスを交わしながら、左手はケイを羽交い締めにしつつ胸を揉みしだき、右手は秘所をじれったい動きでなぶってくる。逃げ場のないケイはヴォルクの腕の中で悶えた。

「あっ……! ん、うっ……。あっ、はぁっ……」

 背中をヴォルクの胸に押し付けると、湿った熱い肌に触れる。自分ばかり感じさせられているのがもどかしく、ケイは震える手で背後を探った。
 ヴォルクの脚に触れ、先ほどからケイの腰あたりで存在を主張しているヴォルク自身に――触れる。

「っ……」

 ヴォルクが一瞬息を呑み、腰を引きそうになった。それを押し止めるように、勇気を出してその根元をそっと掴んだ。ケイは肩越しに振り返る。

「私、だって……触りたい、です…!」

「……ああ」

 見上げると、ヴォルクは耳を染めて息を荒くしていた。眉を歪ませて笑うと、ケイに手を重ねて自身の剛直をしっかりと握らせる。
 ケイは視線を落とすと、握ったものの色や形、そして手のひらから伝わる熱と脈動にごくりと唾を飲んだ。

(やっぱり……大きい。あ、思ったより色薄い……。あれ、なんか……柔らかい?)

 よくこんなものが入ったものだと思いつつ、握ってみると勃ち上がりっぷりと太さの割には弾力がある。ゆっくりとスライドさせるとやはりガチガチではなく、ケイははっと思い至った。

(人種の違い的な……!? う、うわあああ……。すごい、こんな――)

「ケイ……。……っ、あまり、扱くな……」

「は、はい……っ。――あっ!?」

 ヴォルクが押し殺した吐息を吐き、ケイの脚を抱え込んだ。大きく開かされるとそのままヴォルクの脚で固定されてしまう。
 背後から抱きかかえられたまま、秘所をばっくりと晒すことになりケイは羞恥に身をよじった。

「やっ……! ん、う……!」

 ヴォルクの手が再び伸びてきて、しばらく触れられていなかった亀裂を擦った。そこの潤いを確認するといきなり2本、指が差し込まれる。
 中を傷付けぬようゆっくりと抜き差しされると濡れたヴォルクの指が目に入る。ケイは目を閉じて与えられる快感に身を任せた。もちろん、ヴォルクの熱は握ったままで。

「あっ……、はぁ……。……んっ、んう……!」

 先日ヴォルクが突いたところまでは指では届かない。その代わりにもっと浅いところを指で探られ、ケイは短く息を吐いた。
 芽のちょうど反対側。肉を挟んだ前側に、むずがゆく感じる場所がある。そこを押されると腰がもぞもぞと揺れてしまう。外にある親指で芽を同時に擦られると、はっきりとした快感が腰を駆け抜けた。

「あっ、そこ……! あっ、あっ、ダメッ……!」

「……ここも好きか」

「あっ、好き……。んん……ッ、あっ、気持ちいい……。あっ、やだ、だめ、来ちゃう……!」

 脚を閉じようにもヴォルクにがっちり押さえられていてできない。唯一動かせる背中を反らせると、ケイは手を強く握りしめた。指先にぬめる感触があったがそれがなんなのかもう分からない。

「ヴォルクさ……ッ! ああっ……!!」

「……ッ、ケイ……ッ」



 ヴォルクの腕の中で、ケイは絶頂を迎えた。体を強く強張らせると襲ってくる波に耐える。
 強い快楽の波が過ぎ去り、ようやく弛緩するとケイはぐったりとヴォルクに寄りかかった。

「はぁっ……、はっ……」

「大丈夫か」

「はい……。も、やだ……私ばっかり〜……」

「そんなことはない。私も……少し危なかった」

 剛直を握ったままだったケイの手を外させると、ヴォルクが荒く息をつく。ケイの指先にはぬめりが残っていて、それが彼の先走りだと今さら気付いた。
 ヴォルクが手を伸ばし、最初からベッドサイドに置かれていた瓶を掴む。タピオカ――ではなく避妊草を取り出そうとした彼の手を、ケイは無言で制した。

「…………」

 ヴォルクを見つめ、ゆっくりと首を振ると彼は目を見開く。そして黙ってうなずくと、ケイを横たえようと肩に手を掛けた。ケイはそれも、すっと制した。

「ケイ……?」

「あの……座ってください」

「……?」

 ヴォルクにあぐらをかかせると、ケイは脚に力を込めてその腰をまたいだ。ヴォルクが目を見開く。
 よいしょ、とつぶやいて腰を浮かせると、濡れた切っ先に同じく濡れた亀裂をなすりつけた。

「ケイ……ッ」

「あ、またよいしょって言っちゃった。……んっ……、んん――」

 そこを開き、角度を調整してゆっくりと慎重に腰を下ろしていく。一度受け入れたことがあるとはいえ、やはり先端の圧迫感はすごかった。
 ヴォルクの肩に手をつき、底なしのような錯覚に少し怯えながらも熱を呑み込む。臀部がヴォルクの腰に完全につくとケイはほっと息を吐き出した。

「入った……」

「……っ、そなた……」

 ヴォルクが目を見開き、ケイの動きを食い入るように見つめていた。ケイは同じ高さになったヴォルクと目を合わせると、ぺたりとその厚い胸に触れる。

「……っ」

「やっと(さわ)れた……。ヴォルクさ――ヴォルク、全然触らせてくれないから」

「なに……? いや、そんなことは――」

「ありますよ。胸ばっかり触るし」

「……っ……」

 覚えがあるのか、ヴォルクの顔がさっと赤くなる。それをいいことにケイが遠慮なく二の腕や腹筋に触れると、へそのあたりがこらえるように固く締まった。

「誤解のないように言うが……私はそなたの顔も好きだ」

「ふっ……ふふ。ありがとうございます」

 真剣な顔でそんなことを言われ、ケイは思わず笑ってしまった。
 嘘を言わないまっすぐな彼が、口達者ではないのにケイの色々なところを肯定してくれる彼が、愛おしい。
 バツの悪い顔をするヴォルクをケイは包み込むように抱きしめた。

「……愛してます」

「……!」

 過去の傷も、意外な不器用さも、鋭いけれど本当は優しい眼差しも、傷痕のたくさんある体も、全部。全部愛おしくて、自分こそ失いたくなかった。
 ヴォルクの腕が背中に回る。ケイにしがみつくようにして、ヴォルクは大きく深呼吸した。

「ありがとう……。私もだ。そなたを誰よりも愛している。この先も、命尽きるまで」

「やだ、始まったばかりなのに尽きないでくださいよ」

 ロマンチックだが大仰な言葉に顔を上げると、至近距離で見つめ合い、笑い合う。

「ふふっ……。愛してるとか、生まれて初めて言いました。私の国だとあまり言わないから、恥ずかしいですね」

「そなたが恥ずかしいなら、そのぶん私が言おう。……私も女人に乗られたのは生まれて初めてだ」

「えっ。……あっ、はしたなかったですか!?」

「いや。求められているようで……嬉しい」

 自分もヴォルクを欲していると伝えたくてしたことだったが、ちゃんと伝わって良かった。首に手を回し、あざといと思いつつも乳房を胸板に押し付けるとヴォルクが眉を歪めて笑う。

「そなた……実は悪い女だな? 私を先に果てさせるつもりか」

「ふふっ……どうでしょう。でも私さっきイったから、有利かも――、んっ、んむ……んあ……」

 後頭部を支えられてキスを仕掛けられ、言葉は途中で遮られる。そのまま小さく揺すぶられ、ケイは鼻にかかった吐息を漏らした。

(あ……奥、当たる……。深い――。この体位、好きかも……)

「奥まで……濡れてるな。本当に、潤滑剤など不要だったな。そなたの中は……んっ……、温かい……」

 自重が加わるからか先日以上に深く入っている気がした。すぐ近くにヴォルクの顔があり、ケイが触れることも、自分からキスすることもできる。
 眉を寄せてこらえるような表情を浮かべたヴォルクは切羽詰まっていて、荒く息を吐くとケイの背を支えて突き上げ始めた。

「あっ……。んっ、あっ……。ヴォルク……。はぁ、あっ……」

「……っ、ケイ……。あまり、締めてくれるな。果てそうになる」

「締めてないです……っ。本気で締めたらこうです……!」

「ぐっ……! おい、やめろ……! 出る…っ」

 自分ではその気はなかったが、ヴォルクが苦しげに眉を寄せた。産後の骨盤体操を思い出して内側を締めるとヴォルクは本気で切羽詰まった声を上げた。
 ケイの背を解放し、上半身が離れる。目を見開いた、信じられないと言ったような大変珍しいその表情が可愛く見えて、ケイはうっすら笑うともう一度中のヴォルクを締め上げた。

「……っ! そなた――。本当に、恐ろしい女だな」

「えっ。……あっ!?」

 少し乱暴に背後に押し倒され、繋がったままヴォルクにのしかかられる。片膝を胸につくまで曲げられると深くヴォルクが突き入れ、先日初めて知った自分の奥深くのいい場所を突かれてぶわっと快感が広がった。
 ヴォルクの広い背にしがみ付き、狼に攻められて甘ったるい声を上げるだけの獣になり果てる。

「……あっ、あっ! 奥ッ…! あ、そこ……っ。あ、ああっ…! きもちい……。あっ、ヴォルク……ッ!」

「ああ……。ふっ……、くっ……、私も…気持ちいい……。……溶けそうだ」

 ヴォルクの動きに合わせて乳房が揺れる。乳首が擦れてそこからもほのかな刺激が生まれた。
 歪む顔で見上げると、獣のような唸りを上げてヴォルクが快楽に没頭していた。乱暴に口付けられながら、ケイはうわ言のようにつぶやく。
 
「好き……っ。あ、ふああ……ッ! あ、イク、あっ、あっ、んんッ……!! ン――!!」

「ケイッ……! う、あっ、ぐっ……! ……ふっ……、はぁ……っ」


 はくはくと酸欠になりながら、強い快感の階段を駆け上がった。
 ヴォルクの背に爪を立てると、ケイに合わせてくれたのか、それともそもそも限界だったのか間髪入れずにヴォルクが果てる。大きな体がケイの上で震え、想いの丈をケイの体内に吐き出した。

「愛している……。そなたが愛しくて、馬鹿になりそうだ……」

「はぁっ……、ふぅ……。はは……なんですかそれ……」



 先日の事後トラブルの教訓か、ヴォルクが今度は早めに脚を戻してずるりと熱を引き抜いた。
 垂れてきた精を適当に拭うと、ヴォルクはケイを抱えて横になる。互いの汗に濡れた体が張り付き、まだ荒い息を二人で整えた。

「ヴォルクさん……激しいですよね……。あっ、またさん(・・)付けしちゃった」

「自覚はある。すまない、がっついてしまって……。……負担か?」

「うーん……。まあ、このぐらいが上限ですかね……」

 あんまり何度も追い詰められると、自分こそが馬鹿になりそうだ。ケイが苦笑すると、ヴォルクも小さく息を吐く。
 そうしてしばらく無言で互いの体温を感じていると、ヴォルクがのそりと起き上がった。

「……汗をかいたな。湯でも浴びよう」

「ああ、たらい……。お先にどうぞ」

「二人で入れるぞ?」

「……え?」


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