その水滴が、痛い

「……清野さんじゃん」


「……あ、はい、清野です」


彼の口から初めて紡がれる自分の名前に、また顔が熱くなる。


「もしかして、HR終わった?」


「うん。珍しいね。角来くんが、帰りのHRで寝るなんて。いつもはすぐに帰るから」


今日、男子は持久走だったって言ってたし、疲れたのかな?と、内心思っていると。


「ふて寝」


なんて呟いた。


ふ、ふて寝?


「あー、何言ってんのかわかんないって顔、むかつく」


っ!?


む、むかつく!?


あれ、私と角来くんって、付き合ってるよね?


まさか、私がずっと角来くんだと思ってメッセージのやり取りをしていたのは、角来くんじゃない!?


だって……むかつくって……付き合って2ヶ月の彼女に言う言葉かな……。


いや、全然カップルらしいことなんてしていないんだけど。


「髪、まだ濡れてる」


「あ、うん、長いと、乾くの遅くて……」


「……ん。それ、やめて」


「えっ?」


私が聞き返すと、角来くんはおもむろに席を立ち上がって、こちらにジリジリと詰め寄ってきた。


窓側の席。


背中がピタッと窓の縁にくっつく。


「か、角来、くん?」


私の濡れた毛先をすくった角来くんの指も、正真正銘男の子で、心臓がうるさく音を立てて、倒れてしまいそう。


いきなりのことで、何が何だかさっぱりで、声がうまく出てこない。


「……俺が、誰よりも先に、独り占めしたかったのに」


角来くんは、そういうと、私の濡れた毛先を口元に近づけた。

「なっ……」


甘すぎる言動に、いよいよ脳みそまで沸騰してしまいそう。


クールで無口だって有名な角来くんの口から……どうして……。
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