その水滴が、痛い
「受験の日、覚えてないでしょ」
「えっ?」
じゅ、受験の日?
何のことだろうと考えていると、角来くんがブレザーのポケットから何かを取り出して私の手の中に置いた。
手を広げると、そこには、はちみつレモン味ののど飴。
これって……。
「あの日、俺、なんとかギリギリ風邪が治ったばっかで。けど、咳がまだ続いてて」
受験の日……風邪……。
「咳が出る度に、周りの目が痛くて、出しちゃいけないって思えば思うほど息苦しくて。そんなとき、休憩中に、知らない中学の子が、くれたんだよ」
あっ。
その時のことが、一瞬にして、脳内で再生された。
「それが、清野さん」
「嘘……」
まさか、あれが角来くんだったなんて。
私も、受験で緊張していたから、多分顔なんてあんまりよく見ていなくて。しかも、マスクをしていたし。
「その時から、ずっと、いつかちゃんとお礼したいって思ってた。これ舐めてからずいぶん落ち着いたし」
「そ、そんな……でも、良かった、少しでも役に立って……」
「あれから、俺ずっとこの飴舐めてんの。その度に、清野さんのこと思い出してて」
またも彼のそんなセリフに、胸の鼓動が速くなる。
いつもの角来くんはどこへやら。
「あの、わかったから、その、角来くんの気持ちは、十分伝わったし、私も、聞きたかったことが聞けてすっきりしたので、その、ちょっと、距離を……」
と彼から目をそらしながら伝える。
「ん?なに?やっと意識してくれてる?」
「っ、」
角来くんの言うとおり、彼がどうして私を選んだのかわからない時は、そこまで意識していなかったのに。
今、真っ直ぐと角来くんの気持ちを聞いてからだと、身体の暑さも、胸の音も全然違う。
───本気だっていうことが、痛いぐらい伝わってしまうから。