鑑定士マーガレット・エヴァンスは溺愛よりも美味しいごはんを所望する。

6.鑑定士と鑑定スキル。

 マーガレットは一人で街を散策する。出てくる前に一通りこの国や街並み等々本で読み漁って来たけれど、知っているのと実際見るのとでは全く違う。
 城下街はとても活気付いていて、街並みも綺麗に整えられている。

『首都グレーゼル。観光地であり多種多様な人間が行き交うため、珍しい物資も多い。王城のお膝元なだけあり、警備がしっかりしているため治安はかなり良い。世間知らずなお嬢様の一人歩きにオススメ』

「説明ご苦労。最後一行に悪意を感じるけど」

 誰が世間知らずのお嬢様よと半透明の画面につぶやけば、

『鑑定。マーガレット:何もない空間に向かって話しかけるヤバいやつ』

 などと返ってきた。

「なっ!?」

 思わず声が出てしまったため行き交う人が振り返る。くっ、スマホでもあれば通話中のフリでもするのに手元にない事が悔やまれる。
 これでは本当にヤバいやつじゃんと恨めしげに画面を睨めば、

『ドンマイ(=^▽^)σ』

 と表示が切り替わる。

「ちょいちょい顔文字挟んでくるんじゃないわよ。しかもチョイスが腹立たしい」

 人目を気にしつつマーガレットは小声で話す。

『……(´・ω・`)ショボーン 』

「いや、落ち込まなくてもいいんだけどさぁ。実際とっても頼りにしてるし」

 スマホAIのようなこの鑑定スキルと会話が成り立つおかげで異世界に飛ばされても寂しくなかったのは事実なので、マーガレットは慌ててフォローを入れる。

『( ,,ÒωÓ,, )ドヤッ!』

「あなたその顔文字好きね」

 代理人(ポチ)より語彙力あるんじゃない? と一生懸命説明してくれた犬っぽい彼を思い出しながらマーガレットはクスッと笑う。
 行き交う人の視線がいよいよ気になりだしたマーガレットは、

「外では話せないね」

 と名残惜しそうにつぶやく。

『消音モードに切り替えますか? 消音モード:心の中でのつぶやきに対応』

「アイちゃん、そんな事できるんだ。便利か。じゃそれで」

『アイちゃん?』

「AIっぽいから」

 スキルに名前をつけるなんて可笑しいのかもしれないけれど、的確な返しをしてくる相手にいつまでも"お前"とか"あなた"では申し訳ない。
 なので親しみを込めてマーガレットはそう提案した。

「承認。ご用の際はアイとお呼びください」

 気に入ったみたいで良かった、とマーガレットが微笑んだところで、

『人物説明"マーガレット"に命名センスゼロを追加しました』

 アイは容赦ない鑑定結果をぶち込んできた。

「ちょ、不満なら不満って言いなさいよ!!」

 マーガレットは思わず大きな声で突っ込む。
 突然叫び出したマーガレットに、人々はいぶかしげな視線を投げかける。

『AI→アイ。単純。\(^o^)/』

 まだ(笑)のほうが良かったわとちょいちょいおちょくってくる鑑定スキルに対し、マーガレットが文句を口にするよりも早く、

『ーー消音モード起動』

 その表示を最後に画面が消える。
 アイツ、言い逃げしやがったと思いつつもざわざわと聞こえるささやきと人の視線が気になったマーガレットは一目散に立ち去った。
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