鑑定士マーガレット・エヴァンスは溺愛よりも美味しいごはんを所望する。
 うん、間違っちゃない。
 確かにこの世界のごはんは大変微妙。はっきり言えば美味しくない。
 ないのだけど。
 
「ええー!? この微妙な味わいがこの世界のソールフードなのではないのですか!?」

「なんだそれは」

 美味しくないごはんが平気なのがこの世界での普通の感覚なのだろうと思っていたマーガレットには今日一衝撃の出来事だった。

「とにかく、何か食べないと」

「……食べたくない。吐き気がする」

 そこまで頑なに拒否しなくてもと思いつつもここ数週間の食生活で我慢の限界を振り切っているマーガレットとしてはなんだか他人事には思えず可哀想になってくる。
 さて、どうしたものかとマーガレットが思案していると。

「ロキ、やっと見つけた」

 フードを深く被った青年が足早にかけてきた。

「お前、また栄養補給抜いたろ」

 今回は何食抜いたんだと呆れた声でロキと呼んだ行き倒れに話しかける。

「……放っておけ」

「ほら〜ガキみたいな事言ってないで食べろよ。王太子からの命令ですよー」

 じゃなきゃ強制的に高カロリー点滴打たせるぞと笑顔で脅す。
 え、何この会話!? こわっ。ていうか、この人今王太子って言った!?
 そんな偉いヒトと知り合いの人達なの? と思ったマーガレットの目に、

『ハインリヒ・ヒルデブロンド。王太子:本人』

『ロキ・アルヴァーノ。大魔導師:本人』

 の表示が映る。ご丁寧にどっちがどっちか分かるように矢印付きで。

「えー!? 王太子と大魔導師!?」

 衝撃が強過ぎて思わず叫んだマーガレットは慌てて自身の口を手で塞ぐ。
 近くには誰もいない。が、当然当人達には聞かれてしまったらしく、訝しげな2人分の瞳がマーガレットを捉える。

「キミ何者かな?」

 フードをとった王太子はにこやかな表情を作る。が、目は全く笑っていない。
 絶対ヤバいヤツだコレと特に悪い事などしていないのに冷や汗が吹き出す。

「……何で勝手に鑑定が発動して」

 動揺したマーガレットは思わずそう口にする。

『消音モード発動中』

 それに答えるかのように半透明のディスプレイが表示される。
 そうだ、消音モードでは心で思った事に反応するんだったと思い出す。

『( ,,ÒωÓ,, )ドヤッ!』

「……鑑定スキル(うちの子)がシゴデキ過ぎる」

 ついでにこの状況の解決策も教示して欲しかったのだが、専門外らしく何も表示されなかった。

「鑑定士、だと?」

 ハインリヒが驚いた様子でマーガレットをまじまじと見てくる。
 とにかく敵意はないのだと伝えなくてはと思ったところで、

『ぐぅーきゅるるるるる』

 と、地鳴りのような音がした。無論、地鳴りではなく、大魔導師の腹の虫だ。

「あの、なんかお腹の音が盛大過ぎて切なくなってくるので、とりあえず何か食べません?」

 話はそれからで、とマーガレットは控えめに手を上げ発言する。

「食べてくれれば苦労はしない。が、コイツの偏食は並大抵じゃないんだ」

 そう言ってハインリヒはため息を漏らす。

「美味しくないごはんが問題なのでしょう?」

 マーガレットはロキが食事を取らない原因を上げる。

「ごはん、美味しくないのは同意です。なので、私がごはんを作ります。無闇矢鱈と高カロリー輸液に頼るのは良くないと思うので」

 そして美味しかったら無罪放免で、とちゃっかり約束を取り付けたマーガレットはとりあえずごはんを作れる場所に行きましょうかと顔を顰める2人にそう促した。
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