鑑定士マーガレット・エヴァンスは溺愛よりも美味しいごはんを所望する。
「……どこ、ここは?」

 薄暗い部屋で目を覚ましたマーガレットは、自身の身に起きた状況を必死で整理する。
 確かロキに連れて行ってもらった店の片隅でようやく本日のお目当てであるベーキングパウダーを見つけたあとの事だった。
 お酢も見つけたから、チーズを使ってピザを使ってあげよう……なんて、ロキに食べさせたいレシピを考えたいたのだ。
 まだロキは戻って来ておらず、荷物を預けてギルドまで散策してみようと店から出たところで、見知らぬ男に囲まれた。
 反射的に逃げ出して、そして……?

「痛っ」

 後で手が縛られていて、自由が利かない。
 どうやら攫われたらしい、という事をマーガレットは理解する。
 暗さと不自由さは恐怖心を煽り、床に転がされたマーガレットは泣きそうになる。

「状況、はきっとよくない。でも、泣いちゃダメ」

 水分もったいない、とマーガレットは自分を落ち着かせるようつぶやいて身体を起こす。
 何の目的があって自分を攫ったのか分からないけれど、ロキが店に戻ったならきっと探してくれる。それまでの辛抱だ。

「大丈夫」

 その瞬間、ドアが開く。
 ロキの登場を期待したけれど、残念ながら事態は好転せず、どう見ても善良な市民とは言い難い身なりの人間たちが入ってきた。

「先に言っておくけど、身代金なんて出ないわよ!?」

 何せ借金まみれの実家は没落させたし、気にかけてくれる婚約者もいない。
 しがらみから解放されたマーガレットが持っているのは自由だけだ。

「へへっ、俺達はあんたを攫うように頼まれただけだ。依頼人からたーんまりお礼はもらうから気にすんな」

「そうそう。抵抗しないのが一番だぜお嬢様。ケガしたくなければな」

 この状況で男達を撒いて自力で逃げられるだけの力はマーガレットにはない。

「……依頼、って誰が」

「それは言えないな」

 下卑た笑い声を浮かべる男達の視線は怯えるマーガレットの表情と顕になった素足に向けられる。
 はっきりいって気持ち悪い。

「依頼人って、まさかリカルドじゃないでしょうね!」

 なんて当てずっぽうで元婚約者の名前を叫んだ時だった。

『正解d(^_^o)』

 といつもの画面が浮かぶ。

「それは言えないなぁ」

 という男の声と

「はい?」

 鑑定結果を読んだマーガレットが思わず出した声が重なる。

「依頼人を漏らすバカがいるかよ」

 部屋中に男達の笑い声が響くけれど、ぶっちゃけそれどころではない。
 当然、鑑定画面はマーガレットにしか見えていない。
 リカルド、が正解? はて、と考えていると、

「マーガレット!」

 バンっとドアが開く。現れたのは、リカルドだった。

「お前たち、私の婚約者に何をしている!」

 剣を抜いたリカルドは果敢にも狼藉者に立ち向かっていき、あっという間にその場を制圧。
 マーガレットを攫った男達は捨て台詞を吐きながら逃げて行った。
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