鑑定士マーガレット・エヴァンスは溺愛よりも美味しいごはんを所望する。
「ポチちゃんが説明した通り、世界の発展のために定期的に異なる世界のエネルギーを取り替えっこしているの。今がその時期なんだけど、ここで一つ想定外が起きた」

「想定外?」

「神様がひっさしぶりにやる気出しちゃってね〜。でも神様からすれば人間なんて豆粒みたいなモノで判別し辛いものだから、手元が狂って対象者間違えちゃった的な?」

 てへっ⭐︎と一般人がやったら絶対ダメなポーズを堂々とやる先輩。悔しいことに非常に可愛い。自分で美少女と言うだけはある。
 が。

「的な、で済ませないでくれる!?」

 人ひとりの人生詰んでるんだけど!? と全力抗議の姿勢で苦情を述べる。

「じゃあ聞くけど、あなたは蟻んこの命を尊重しながら今まで生きてきたの?」

 へーすごーいと棒読みで拍手をする先輩を前に言葉が見つけられず黙り込む。

「つまりはその程度(・・・・)ということよ。でもそれじゃあんまりだ、っていうので作られたのが苦情対策課」

 人間のシステムに似せてるのは神様の趣味ね、と言った先輩はモニターを操作しながら説明を続ける。

「あなたにある選択肢は2つ。異世界にある別人の身体に憑依して残りの寿命を謳歌する。元の世界で全部綺麗に忘れて生まれ変わる」

 どっちがいい? と小首を傾げる先輩。

「そんな、急に言われても」

「ちなみに私のオススメは、断然異世界転移よ!」

「理由は?」

「私達の手間が少ないからに決まっているじゃない」

 またしても間髪入れずにそう答えた先輩は、

「本来なら、ここでないエリアの魂と入れ替えるはずだったのよ。せっかく同意までもらったのに嫌になっちゃう」

 今、浮いてる魂あなたしかいないのよと肩を竦める。
 明け透けな先輩の物言いに返す言葉が見つけられない彼女に代わり、

「先輩! あんまりですよ!! もうちょっとこう、優しさとか優しさとか……あと優しさとかないんですか!?」

 半泣きの代理人が反旗を翻す。どうでもいいがボキャブラリーが少ないなとツッコミたくなる。

「だーかーらーいつも言ってるでしょ。一々対象者に感情移入しちゃうポチちゃんの方が稀なんだって」

 感情労働とか非効率過ぎと先輩はばっさり切り捨てる。

「で、でも、突然神様の手元が狂って死にましたなんて雑な告知酷すぎます! その上辻褄合わせのためにさっさと異世界に行ってくれなんて。こういう時ほど優しさと優しさが必要かと」

 対話をすれば分かりあえるはず、と熱心な代理人。が、お前のオブラートも破けているぞと教えてあげたい。

「せっかくの苦情対策課ですよ! 一人ずつの話に耳を傾けて、納得して頂いて折り合いをつける方が」

「うん、うん。私、ポチちゃんのそういうとこ嫌いじゃないけど、話が進まないから飴ちゃんでも舐めときなさい」

 そう言って代理人(ポチ)の口に大きな棒付きキャンディを容赦なく突っ込む。

「〜〜んーーんん!!」

「で、どうする?」

 突然話が自分に戻り、悩む事数秒。

「……ポチと話して決める、に一票」

 自分の立場というものをおおよそ理解した彼女はまだマシ、と判断した代理人(ポチ)に詳細を聞き、そして慰謝料を受け取った上で異世界行きを選択したのだった。
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