鑑定士マーガレット・エヴァンスは溺愛よりも美味しいごはんを所望する。
4.鑑定士と異世界。
婚約破棄されてから、数日。
マーガレットは婚約を破棄されたショックから落ち込んでいる体で、部屋に引き籠もっていた。
その間、可能な限りこの世界の情報を読み漁ってみた。
何せ右も左も分からないのだ。今まで生きて来た常識とはあまりにも違い過ぎる世界にいきなり放り出されて大丈夫と言えるほど楽天家ではない。
元のマーガレットは非常に勉強熱心だったようで部屋には沢山の書籍があった。おかげで、この世界や国の概要はおおよそ把握できた。
例えば、この世界には"魔法"というものが当たり前に存在し、誰しもが魔法を使え、様々な生活道具は魔力をエネルギーに動かしている、とか。
例えば、神から祝福を受けたものに稀に"スキル"と呼ばれる特殊能力が宿る、とか。
例えば、国に仕える魔法貴族にとって婚約とは家の存続を左右する重要なものであり、婚約破棄とは貴族令嬢にとって致命的な醜聞であって、ここから先の人生詰みの一手である、とか。
「いやいやいやいや。たかが婚約破棄くらいで大袈裟な」
マーガレットは読んでいた本に思わずツッコミを入れる。
「愛のない結婚……っていうよりもあの浮気性で脳内お花畑の碌でなしの妻として生きる方が人生詰みでしょ」
元々庶民なので貴族的な暮らしに興味はないし、労働自体は嫌いじゃない。
ありがたいことにマーガレット名義の私財もあるようなので、婚約破棄を理由に家を追い出されたとしても当面はなんとかなるだろう。
「それにしてもこの"鑑定"スキル。超便利。やっぱり慰謝料もらっておいてよかった」
異世界に飛ばされた代償として付与された特殊スキル"鑑定"。
これのおかげで文字は何なく読めるし、理解できない知識や見た事のない物も注釈付きで解説してくれる。
そして出会った登場人物がマーガレットの知り合いであった場合、関係性まで教えてくれるという優れもの。
リカルドが結婚詐欺にあっている真っ最中だという事もこのスキルのおかげで知った。正直、ざまぁと思った。
ミリアとリカルドのその後は知らないし、興味もないけれど、慰謝料として鑑定スキルが提示されるまで素直に異世界転移に同意しなかった自分を褒めてやりたくなる。
「他人の身体に入っているなんて、変な感じ」
ぽつりと呟いたその声はかつての自分のモノとはまるで違う。
マーガレットはじっと鏡を見る。腰まである亜麻色の髪に琥珀色の大きな瞳。
派手な顔立ちではないかもしれないが、自分の基準で言えば十分可愛い。少し前までの自分とは似ても似つかない彼女。
「新しい世界では、マーガレットが幸せだといいな」
巻き込まれた自分とは違い、異世界への片道切符を自ら望んだというマーガレットの事を想う。
彼女がどんな人物であったのかは知らないが、身体にも記憶というものがあるのなら、間違いなくマーガレットは努力家だ。
そうでなければ、淑女教育など受けたこともなく、この世界どころか元の世界でのテーブルマナーすら怪しい自分が全く苦労することなく日常生活を送れるとは考えづらい。
マーガレットがこの世界で積み重ねた努力は間違いなく彼女の身体に染み付いている。
元のマーガレットの転移先は、そんな彼女の努力が報われる世界だったらいい、と願うことしかできないが。
「さて、感傷的なのはこの辺にして。私もこれから先を考えなきゃね」
そして、それは自分自身にも言えること。
もう戻る事のできない、元の世界に未練はない。
「さぁ、一から仕切り直しといきましょうか」
これからはマーガレット・エヴァンスとして生きていくのだと自分に気合いを入れて今後についての選択肢を並べた。
マーガレットは婚約を破棄されたショックから落ち込んでいる体で、部屋に引き籠もっていた。
その間、可能な限りこの世界の情報を読み漁ってみた。
何せ右も左も分からないのだ。今まで生きて来た常識とはあまりにも違い過ぎる世界にいきなり放り出されて大丈夫と言えるほど楽天家ではない。
元のマーガレットは非常に勉強熱心だったようで部屋には沢山の書籍があった。おかげで、この世界や国の概要はおおよそ把握できた。
例えば、この世界には"魔法"というものが当たり前に存在し、誰しもが魔法を使え、様々な生活道具は魔力をエネルギーに動かしている、とか。
例えば、神から祝福を受けたものに稀に"スキル"と呼ばれる特殊能力が宿る、とか。
例えば、国に仕える魔法貴族にとって婚約とは家の存続を左右する重要なものであり、婚約破棄とは貴族令嬢にとって致命的な醜聞であって、ここから先の人生詰みの一手である、とか。
「いやいやいやいや。たかが婚約破棄くらいで大袈裟な」
マーガレットは読んでいた本に思わずツッコミを入れる。
「愛のない結婚……っていうよりもあの浮気性で脳内お花畑の碌でなしの妻として生きる方が人生詰みでしょ」
元々庶民なので貴族的な暮らしに興味はないし、労働自体は嫌いじゃない。
ありがたいことにマーガレット名義の私財もあるようなので、婚約破棄を理由に家を追い出されたとしても当面はなんとかなるだろう。
「それにしてもこの"鑑定"スキル。超便利。やっぱり慰謝料もらっておいてよかった」
異世界に飛ばされた代償として付与された特殊スキル"鑑定"。
これのおかげで文字は何なく読めるし、理解できない知識や見た事のない物も注釈付きで解説してくれる。
そして出会った登場人物がマーガレットの知り合いであった場合、関係性まで教えてくれるという優れもの。
リカルドが結婚詐欺にあっている真っ最中だという事もこのスキルのおかげで知った。正直、ざまぁと思った。
ミリアとリカルドのその後は知らないし、興味もないけれど、慰謝料として鑑定スキルが提示されるまで素直に異世界転移に同意しなかった自分を褒めてやりたくなる。
「他人の身体に入っているなんて、変な感じ」
ぽつりと呟いたその声はかつての自分のモノとはまるで違う。
マーガレットはじっと鏡を見る。腰まである亜麻色の髪に琥珀色の大きな瞳。
派手な顔立ちではないかもしれないが、自分の基準で言えば十分可愛い。少し前までの自分とは似ても似つかない彼女。
「新しい世界では、マーガレットが幸せだといいな」
巻き込まれた自分とは違い、異世界への片道切符を自ら望んだというマーガレットの事を想う。
彼女がどんな人物であったのかは知らないが、身体にも記憶というものがあるのなら、間違いなくマーガレットは努力家だ。
そうでなければ、淑女教育など受けたこともなく、この世界どころか元の世界でのテーブルマナーすら怪しい自分が全く苦労することなく日常生活を送れるとは考えづらい。
マーガレットがこの世界で積み重ねた努力は間違いなく彼女の身体に染み付いている。
元のマーガレットの転移先は、そんな彼女の努力が報われる世界だったらいい、と願うことしかできないが。
「さて、感傷的なのはこの辺にして。私もこれから先を考えなきゃね」
そして、それは自分自身にも言えること。
もう戻る事のできない、元の世界に未練はない。
「さぁ、一から仕切り直しといきましょうか」
これからはマーガレット・エヴァンスとして生きていくのだと自分に気合いを入れて今後についての選択肢を並べた。