鑑定士マーガレット・エヴァンスは溺愛よりも美味しいごはんを所望する。

5.鑑定士は自由を手にする。

 前言撤回。
 元の世界に多大なる未練があったわ。とマーガレットは目の前に広がる食事を前に盛大にため息をつく。

「どうした? マーガレット」

 食事に手をつけないマーガレットを心配そうに見つめ、そう声をかける父親と、

「食欲がないのね、可哀想に。やはり婚約破棄が堪えているのかしら」

 憂い顔を浮かべる母親。一見とてもマーガレットは大切にされ、愛されている子に見える。ただし、両親のすぐ側で浮いている半透明の液晶画面と大きな矢印がなければ、だが。
 マーガレットは殊勝な表情を心掛けながなら液晶画面を盗み見る。

『オーノス・エヴァンス。エヴァンス伯爵家当主。マーガレットの血の繋がらない(・・・・・・・)父親。マーガレットを厄介払いするために碌でなしのリカルドとの縁組をした張本人。属性:金食い虫の寄生虫』

『カミーユ・エヴァンス。オーノスの後妻。マーガレットの継母。エヴァンス伯爵家を乗っ取る気満々。属性:浮気性で若い男好き』

 うん、なかなかに酷い。
 元のマーガレットが異世界転移を了承するくらいなのだから、家庭環境に難ありだとは思っていたけれど。

(鑑定結果の説明が辛口なのは元のマーガレットの心情を反映しているからなのかしら?)

 人間なんて腹の底では何を考えているか分からないものだけど、こうも明け透けに視てしまっては早々に距離を取りたくなる。

「ねぇ、あなた。マーガレットさんの婚約破棄はなんとかなりませんの」

 このままではあまりに不憫で、なんてハラハラと涙を流すカミーユ。
 おおー伯爵家を乗っ取ろうかという気概のある女性はこんなにも演技派なのかとマーガレットは観劇でもするかのように継母を見つめる。

「ああ、私もそれは思っていた。いくら家格が上だとはいえ、こんな一方的な婚約破棄なんてあんまりだ」

 オーノスはぐっと拳を握りしめ、うちの娘をなんだと思っているんだと憤る。

『→追記。マーガレットとの婚約を盾にクレバー侯爵家から多大なる借入をしているため婚約破棄の事態に焦っているオーノス!」

「マーガレットには非がないというのに、あんな女に誑かされるなんて」

『オーノスも現在進行形で愛人に貢ぎ中』

「事業提携の件もある。やはりクレバー侯爵に申し入れをしなくては」

 お父様に任せておきなさいと胸に手をあてドヤ顔のオーノス。

『事業は暗礁乗り上げ寸前』

 が、鑑定画面は容赦なく現状をぶっ込んでくる。
 白けた気持ちで眺めていたら、突然画面が切り替わり、

『果たしてオーノスは借金取りから逃げ切れるのか!? 乞うご期待!!』

 と表示される。鑑定というより、もはや次回予告。

「……ふ、っはは、けほっ」

 オーノスの大根役者ぶりと画面の注釈に思わず吹き出しそうになったマーガレットは咳をして必死に誤魔化す。
 なんなのよ!? と半透明の画面を睨めば、

『( ,,ÒωÓ,, )ドヤッ!』

 と、表示。
 どうやらこの鑑定スキル、自分の意志があるらしい。
 お前、真面目に鑑定(仕事)しろよ! と思わずツッコミそうになったマーガレットは、落ち着け自分と言い聞かせながら飲み物を口にする。それは、一瞬でマーガレットを冷静にさせた。
 そして、元の世界への多大なる未練を思い出す。
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