唯都くんは『運命の番』を溺愛したい
オタクテンションで別世界に飛んでいた、私の意識。
現実に意識を戻した時には、会場が静かになっていた。
スピーカーから大音量で流れていた曲も、いつの間にかストップ。
これって、エンラダのライブが始まるってことだよね?
今すぐ家に帰って、私は家事をしなきゃなんだけど。
よく考えてみて、琉乃。
生身の推しを拝める奇跡なんて、この先二度と訪れないよ。
1曲だけ堪能して、猛ダッシュで屋敷に帰ることにしよう。
それならお母さんからのビンタも、私のほっぺ1往復で済むと思うから。
理亜ちゃんには見つかりたくはない。
私はさらにバックして、ファンの群れから遠ざかる。
空き地内の道路ぎわに立つ、キラキラと茂る葉が煌めいている大木。
太い幹の後ろ回り込み、顔だけをちょこっと出してステージを見つめてみた。
ステージ床が胸の高さくらいある分、離れていても推しの顔がよく見えそうだな。