唯都くんは『運命の番』を溺愛したい

 ただ……



 残された側も苦しむことになる。

 俺が急に消えたら我流も尊厳も独璃も、天禰がいなくなった時の苦しみをもう一度味わうことになる。

 エンラダメンバーに、幼稚園からの幼なじみに、二重の苦しみを背負わせたくはない。



 我流の前まで駆けた。

 なに泣きそうな顔してんだよ、と言いたげに俺を見る我流。

 顔が引きつっているのは自分でわかっている。



 ここまで来たのに、何を伝えればいいかがわからない。

 琉乃ちゃんが人質として捉えられていることは言えない。

 いまから助けに行くことも、琉乃ちゃんの代わりに自分が売られることも、絶対に口にはできない。



 でも俺は今、何かを伝えたいんだ。

 勝手に消えて、大事な親友たちを悲しみの沼に突き落としたくないんだ。



 言わなきゃ、大事なこと。

 でも……

 俺は何を伝えたらいい?

 ダメだ、言葉が……吐息すら出てこない。


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