唯都くんは『運命の番』を溺愛したい
にこやかに手を差し出してくれている唯都様。
私は彼に背中を向け、木の幹に両手をついて立ち上がる。
これでいつでも、即席ライブ会場から逃げられる!
走りだそうと、足の裏で地面を踏み込もうとしたのに。
なんでこんな時に限って、足がしびれちゃうかな?
心臓のドキドキが、太ももに伝染しちゃったのかも。
おかげで私は、緑の葉が茂る大樹の前から動けない。
「ねぇ教えて、キミの名前」
優しいお兄さんスマイルで見つめられたら、お願いを拒められなくなっちゃう。
「……琉乃……です」
「琉乃ちゃんね。覚えたよ。何度もささやきたくなるくらい、可愛い響きだね」
推しに褒められただけで「嬉しい嬉しい」と脈が飛び跳ねてしまうのは、もはやしょうがない。
脳がとろけていそうなほど意識がぼーっとしてるせいで、つい口からこぼしちゃったけれど……