ある日、私は聖女召喚で呼び出され悪魔と間違われた。〜引き取ってくれた冷血無慈悲公爵にペットとして可愛がられる〜

◇13


 それは、突然だった。


「痛っ」


 自分の部屋にあるリンの花を見ていて、つい触れてしまい、葉で指を切ってしまった。何か拭けるもの、と思っていた次の瞬間。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 リンのお花が突然大きく伸び出した。茎が伸びていき、部屋の壁、さらには天井まで張り巡らされていて。そして、白い花が沢山咲き始まった。リンの花に囲まれてしまったのだ。


「えっ、きゃぁぁぁぁ!!」

「夕琳様!!」

「ご無事ですか!!」


 この部屋のドアを開けて入ってきた侍女さん、使用人さん達もこれを見てびっくりしている。


「無事か!」


 公爵様も急いで来てくれたようで、周りのこの状況を見渡しては驚いているようだった。公爵様はリンの茎をかき分けて入ってきて、近づいてきた。私が怪我した指の方の手首を掴んでいて。一体何をしでかしたんだ。と、視線でそう言われてるのが分かった。

 すると、窓から入ってくるものが。見覚えがある、何時もリンの花の所に来ていた蝶ちょさんとハチさんだ。

 私の目の前まで来て、自ら光を放った。光が収まると、姿が変わってて。


「おいおい、今度は精霊か……」

「せ、精霊?」


 さっきより大きくなっていて、人の形をして羽根が生えている。何となく、蝶ちょさん、ハチさんの姿っぽいような。その二匹は、私の頬にキスをしてきて、そして金色に変わった。


「こ、これ、どうしたら……?」

「知らん、私に聞くな」


 えぇ……

 どうしたらいいか分からず困っていると、蝶ちょさんの方が植木鉢を指さした。この張り巡らされたリンの花は、すべてここから伸びてる。……え?

 ハチさんが、何となくだけどお願いすればいいって言ってるような、そうでないような。


「お、お願い、戻って」


 そう優しく言い聞かせると、どんどん元に戻っていき最初のような姿になった。


「聞かせてもらおうか」


 とても怖い公爵様の顔が向けられて、ちょっとビビっていると、また茎が伸びてきて今度は私の腕に巻き付き先端の花や葉っぱが公爵様に向けられてしまって。慌ててさっきのように戻ってもらった。






「手を切ったらああなったと」

「は、はい」


 先程の経緯を話した。もう何が何だかよく分からない。一体どうなってしまったんだろう。


「お前に危害を加えるようなことが起こりそうな時、あるいは起こった際に動き出し守ろうと動き出したと言った所か。たとえ些細な事だとしても、だ」

「だ、だから指を切った時に動き出したんですね」

「先程の様子からして、お前の感情を読み取っているようにも見える」


 さっき、公爵様の事ちょっと怖いって思ったから、ああやって動き出したのか。でも、本当にちょっとだけだったのに、それでもああなっちゃうなんて。


「確か、二回目の召喚で呼び出された聖女の一人だったか。その方も同じような事をしたと文献に書いてあった」


 彼女は、あらゆる草木を操る事を得意とし、精霊という存在を見つけ出し契約をしたそうだ。


「精霊は、こことは違った場所に生息している。だから早々会えるものではないし、人間を好かない。稀に聖女に懐くことはある。だが、精霊化などこれは初めてのケースだ。これで精霊の謎はより一層深まったな」


 そんなに凄いことが起こってしまった、という事? ニコニコしながら私の周りを飛び回って楽しそうだけど、近くにいる公爵様や侍女さん達の所には近づいていかない。

 ん? 待って? 今の話じゃ、私って……聖女だったの!? 違うって言われてたのに!!


「精霊は、治癒の力を持っている。お前が怪我をした傷は?」

「あっ!」


 さっき切ったはずの指は綺麗さっぱりと治っていた。さっきまで怪我してたことすら忘れていたから何時治ったのかは分からないけれど。


「それもこいつらが治したんだろう。限界はどこまでかは知らないが、たいていの怪我、病は簡単に治せるはずだ」

「えっ!?」


 そ、そんなに凄い子達だったんだ……あっ、じゃあ誰かが怪我をしても治してもらえる……?

 けど、目の前のソファーに座る公爵様は、はぁぁぁぁぁぁぁ、と大きく深い溜息をついていた。


「全く、ウチのペットはやらかしてくれるな」


 あ……これ、私が思ってるよりマズい事……? と思っていたけれど、どんどん顔が青ざめていってしまった。図書館での公爵様との会話を思い出したのだ。もし、これを皇帝陛下が知ってしまったとしたら……


「皇城にいる聖女達は、色々と四苦八苦しているようだ。まぁ、年々呼び出される聖女達は、神聖力のコントロール力が衰えてきている傾向にある。今、隣国が不穏な動きを見せていて陛下は焦っている様子だ。今、お前の事を知られれば即隣国潰しを開始、お前を前線に送り込むのは目に見えている」


 その言葉に、血の気が引いた。戦場、命の危険に(さら)される場所。そんな事が始まってしまえば、沢山の命が散ってしまう。


「わ、私、そんなこと出来ません。戦場に行ったって、出来ることなんてこれっぽっちも……」

「ウチの毒草園」

「あ……」


 もし、即死させてしまう毒草を使ったら。そう考えるとより一層青ざめてしまった。

 そ、んな、先代の夫人が丹精込めて作った毒草を使って人を殺めるなんて、そんな事……


「はぁ、仕方ないな。ウチの可愛いペットの為だ、一肌脱いでやろう」


 と、公爵様の大きな手が私の頭を撫でた。


「こっちは任せろ。お前はその聖女の力とやらに専念すればいい。今度は屋敷中に植物を張り巡らされでもしたら敵わんからな」

「は、はい」

「アルロ、ルミトワ侯爵に大至急こっちに来るよう伝えろ」

「畏まりました」


 とんでもないことが起こっていて、自分では到底手に負えなそうで、不安ばかりのはずなのに……公爵様のその言葉で心が落ち着いたような気がした。

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