ある日、私は聖女召喚で呼び出され悪魔と間違われた。〜引き取ってくれた冷血無慈悲公爵にペットとして可愛がられる〜
◇7
私は今、窮地に立たされている。公爵様が呼んでいる、との死刑判決のような一言を貰い、冷汗をかきながら重い足取りで彼のいらっしゃる執務室へ向かった。
扉が開かれると、長テーブルを挟む二つのソファーのうちの片方に座る公爵様を見つけることが出来た。そして、次に目に入ったものは、長テーブルの上に並べられたもの。
「座れ」
足を組み、資料片手に飲み物を飲み反対側のソファーに座るよう目で促す公爵様。カチコチになりつつゆっくりと座った。
目に入るのは、目の前に並べられた、色とりどりの華やかな甘味だ。ケーキ、と言ったかな。
「食え」
……え”っ!?
頭の働きが停止する、とはこの事なのだろう。このために、私は呼ばれた……?
「公爵様、レディがお困りですよ」
公爵様側のソファーの後ろに立つグリフィスさんが、苦笑いの顔で助けに入ってくれた。一番手前にある、この細長い棒二本。これは、私が説明した〝お箸〟を再現して作ってみたものらしい。うん、確かにお箸だ。きちんと説明が伝わっていてよかった。
「レディの為にご用意させていただいたケーキです。どうぞ、そのお箸でケーキをお楽しみください」
あ、そういう事か。でも、何でこんな公爵様の執務室で? 普通食堂では? きっと公爵様忙しいだろうし……あ、使い方を見てみたい、とか?
見知らぬものに興味を持つのは普通の事。きっと公爵様はそういった理由で呼んだに違いない。うん、たぶんそう。……と思わないとお箸落としちゃいそう。あの、その顔は、何と言ってるのでしょうか……? 真顔でじっと見ないでくださいぃ……
公爵様を視界に入れないよう視線をしたの甘味の方へ落した。プルプルさせながらも、これってちょこれーとケーキだっけ。先っぽをお箸で一口サイズに切り、そぉーっと口に入れた。
何ともほろ苦く、そして甘い。そんな不思議な味が口いっぱいに広がる。美味しい。けど、視線が痛い……食べづらいし、量も多いしでどうしたらいいのか分からない。
けれど、とりあえず手を付けた黒い甘味は全部食べた。次に、小さくて丸い薄茶色の……しゅーくりーむ? を。あぁ、美味しいけれど、これ以上食べたらお夕食入らなくなっちゃいそう……
すると、顔に出てしまっていたのか、またグリフィスさんが公爵様に小さな声で囁いていて。
「何だ、もういいのか」
どうやら私の心の声をくみ取ってくださっていたようで。本当に助かりました。
「お箸か。実に面白いカトラリーだ」
やっぱりそうだった。……けど、それだけ? 飲み物飲んで、資料に目を向けてしまったけど……私、どうしたらいい?
「屋敷での暮らしは如何ですか」
ジト目で公爵様を見ていたグリフィスさんは、笑顔でそう話しかけてきた。
「周りの皆さんがよくしてくださって、楽しく過ごしてます」
「それは良かった。退屈などはされていませんか? 何かやりたい事などがございましたらこちらでご用意いたしますよ」
やりたい事。そう、私は公爵様に許可をもらうため今日の夕食で言おうと思っていた事がある。
「実は、土いじりをしたくて……」
「土いじり、ですか……」
何か、悪い事を言ってしまっただろうか。マズい顔をしている。目の前の公爵様は溜息をしてる。やっぱり、ダメだったかな。
「実は、ここ公爵邸の庭は他の庭とは違いまして……」
「違う?」
「その、ですね……一区画にはある特殊な種類の草花が植わっているんです。その為、他の花にも影響が及んでしまっていまして……夕琳様は異世界からいらっしゃったため気付かなかったと思いますが、こちらに植わっているものは少し違ったものばかりなんですよ」
特殊……もしかして、色々な所から取り寄せた珍しいものばかりが植わってるって事かな。いろいろと環境に左右されるから手を加えてしまうと大変って事?
「毒を持ったものばかり植わってるんだ」
「こっ公爵様!!」
ど、毒……!? 毒花とか、毒草とか!? わ、私触ってなかったよね!?
「公爵様! そんなストレートに言ってはレディが怖がってしまうでしょう!」
「本当の事を言ったまでだろ。そんな回りくどい言い方をするのはかえって失礼じゃないのか」
「必ずしも公爵様と同じ考えだとは限りませんよ! しかも相手は女性の方です!」
「あ、いえ、大丈夫ですから」
「らしいが?」
「はぁ……失礼しました」
私達が散歩した所は毒を持った植物はないエリアだったらしい。それを聞いてホッとした。でも、どうしてそんなに毒の植物を? いや、それは聞いたらダメな気がする。
なら観賞用の植木鉢でも用意させろ。そんな公爵様の一声で終わってしまった。ちゃんと毒のない花をご用意しますからと強く言われてしまった。ま、まぁ、これはしょうがない事だよね、うん。