ある日、私は聖女召喚で呼び出され悪魔と間違われた。〜引き取ってくれた冷血無慈悲公爵にペットとして可愛がられる〜

◇9


 今日も、図書室に来ていた。昨日見つけた〝聖女と歴史〟についての本を選び、窓の近くに椅子を運んだ。公爵様の特等席とは違うところに。

 うん、やっぱり窓の近くは居心地がいい。今日はいい天気だから暖かい陽が当たって気持ちいい。教えてくださりありがとうございます。

 因みに、今日は彼はいない。だから、昨日教えてくださった事を思い出しながら読んでみた。

 最初に呼び出された聖女様は、一人。とても容姿が素敵な方で、金色の瞳、髪をしていたらしい。

 これを見ると、まさしく聖女と思える。

 彼女は、今の皇室、皇族の先祖となったらしい。でも、それなら神聖力を使えるのでは? とも思ったけれど、聖女は自分の子供に神聖力を受け継がせることが出来ないらしい。だから、聖女召喚の儀式は何度も何度も行われたという事ね。

 神聖力とは、奇跡を起こす力。自然を操る力だ。大地が枯れた地域に雨を降らせ、海荒れ、竜巻、大雨、地震を(しず)めた。

 でも、考えてみれば反対の事もできる。ほら、こっちに書いてある。戦争の記録。

 噴火、津波、竜巻、大雨、地割れ、地震。聖女はそんな大規模なものを引き起こし、戦争に打ち勝ったと書かれている。美化されてはいるけれど、昨日の公爵様の話を聞いた私には、そう感じられた。


「またか」

「あ……」


 本に見入っていた私は、公爵様が来ていたことに気が付かなかった。

 でも、昨日の特等席とは違って、私の近くの窓枠に座って持っていた本を開いたのだ。どうしてここに? 昨日座っていたところは空いているのに。


「……それ、触れていいか」

「え?」


 それ、とは……角のことだろうか。構いませんよ、そう答えたら手を伸ばしてきた。指先でトントンとつついてきて。先っちょはとんがっているけれどそんなに鋭いわけではないから怪我はしない。


「結構硬いな。寝づらくないのか、これ」

「慣れてますから」


 ふむ、と指の腹で撫でたり、髪を避けて付け根を見ていたりするからちょっとくすぐったい。


「あ、あの、聞いても、いいですか……?」

「なんだ?」

「聖女召喚の儀って、200年前から続いてきたんですよね……? しかも、一回の儀式で、一人じゃなくて複数」

「そうだ。今回は15人。前回は10人と聞いた」


 と、角に触る手は止めずにそう答えてくれた。いつまで触っているつもりなのか、付け根まで触ってきて。別に構わないけれど、段々恥かしくなってくる。


「あの、元の世界に帰れた人って、いたんですか?」

「いない。皆この国で生活し亡くなっている」


 そ、そっか、あんな皇帝陛下だもん、この国から出すはずないよね。それに、もし帰る手段があったとしてもきっと皇帝陛下はそれを隠し手元に置いておきたいと考えるはず。


「じゃあ、聖女の子孫って、沢山いるってことですか?」

「そうだな。貴族の中では聖女と結婚し子孫を残している家が多い。最も多いのは皇族だがな。この公爵家も例外ではない。先代の夫人も聖女だった」


 そ、そっか、貴族の方々が婚姻を結んでたのか。平民と、なんて確かにさせてもらえないはず。あんなに大切な聖女様だもんね。

 200年続いてるって事は、聖女召喚の魔法が数十年に一度しか使えないとしても、きっと何十人もの聖女がこの国に呼ばれたはずだから、きっと周りの貴族の人達の先祖には聖女が何人もいるのかもしれない。


「因みに言うと、先代の夫人は変わり者でな。まぁ、皇室が先代に押し付けたというのが正解か」

「か、変わり者……」

「あの毒草園を作ったのも彼女だ」

「えっ」


 あの、毒草園を……た、確かに変わり者ではある。

 でも、どうしてそんなものを作ったのだろう。そんな疑問に、公爵様は答えてくれた。ただ、作るだけで良かったらしい。育てて、綺麗に咲かせて、その達成感を感じる事が彼女の楽しみだったという。

 こちらとしては迷惑な話だな、と言っていたけど、笑っていた。先代の夫人、という事は彼のお母様、という事。きっと、懐かしい思い出がたくさんあると思う。

 私も、お花を育てるのは好きだ。前の星でも、家に植ってる野菜の隣に、綺麗なお花を咲かせていた。結構楽しかったから、なんというか親近感は湧く。……毒花はよく分からないけれど……もしかしたら、毒を持ってるだけで見た目はとても綺麗な気がする。うん。


「見に行っても、いいですか……?」

「そうだな……人間は平気でも羊が触れたら即死してしまうものがあるかもしれない」

「えっ……」

「だから、私が連れていってやろう」

「えっ!?」


 こ、公爵様が!? 私と行ってくれるの!? でも、忙しいんじゃ……


「ペットは散歩をさせないといけないからな。飼い主の役目なんだ、それくらいはするさ」

「ペッ……」

「何だ。羊なんだろ?」

「……」


 ……ひどい。からかってるって事は分かるけど、それでもひどい。羊なのは本当なんだけど……飼い主とペットだなんて! ちゃんと成人した羊獣人だもんっ!


「どうした、お腹でも空いたのか? おやつの時間にはまだ早いぞ。それまで我慢だ。出来るか?」

「公爵様っ!」

「ククッ……」


 わ、笑わないでくださいぃ!

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