今夜キミの温もりと。




明日からサマースクール。
あの日彩の家に泊まってからずっと彩の家にいさせてもらってる。
自分の家に帰りたい気持ちは山々なんだけれど、プライドで言えない。それにサマースクールの荷物は持ってきているし、帰らなくても困ることはないんだけど。
朝ご飯を彩と二人で食べた。
「百合〜?そろそろ行ける〜?」
彩の声が聞こえて、私はリュックを持って彩に返事をした。
「行けるよ…!」
「おっけー‼︎てか、百合ピクニック行くのにコーヒー持って行くの⁉︎」
そう。今日は翔と私と彩で松の木公園でピクニックをする。
そして、私の右手にあるのがコーヒー。彩は信じられないと言う目で見てくるけれど、そこはスルーしよう。
「全くねえ、あんたわかってる?ピクニックっていうのはさ、ご飯食べて、ゆっくり話す会みたいなもんなの!」
「へー、そうなんだね」
「棒読み‼︎」
あはは。棒読みは事実だけれど、意外と楽しみで昨日寝れなかったり。今日の朝、早く起きちゃったり。表情には出さないけれど、嬉しいって思ったり。楽しみって思ってるのは事実。
……あれから、彩は気を遣ってくれてるのか、学校に行ってないことなどを一切聞いてこない。
こっちからしたらありがたいけれど、やっぱり少し気まずいのはなんでかな。でも今はこのままがいい。これが幸せだから。
そんな私の気持ちを察したのか、彩は嬉しそうな顔をした。
「もうっ、行くわよ!」
「うん…!」
そう返事をして、私は玄関へと歩いた。彩の家の玄関はとても広い。いいなぁなんて、よく思ったりもする。
彩のお母さんに一言声をかけて、私達は家を出た。
靴を履いてリュックを背負って。
外に出ると嫌なほど太陽が出ていた。
暑いのが嫌いな私はこの天気がすごく嫌だから、太陽を思いっきり睨んでみた。……みた。みたんだけど。全く変化なし。もう一度強く睨んでみるけれど、太陽はウザいほどニコニコしている。
「はあ…」
思わずため息をついた。そんな私に気がつかなかったのか、彩が話しかけて来た。
「あのさ…、百合ー、明日のことなんだけどさ…」
ちょっと気まずそうに。彩の顔がこわばっている。
「うん」
「朝、和と翔と慎と私と百合五人で行かない?」
「っ、え」
思わず情けない声が出てしまう。
五人で行く?和と翔と慎と彩と私で?
「えっと…、無理…?」
「…いい、よ」

そう答えた私に彩は嬉しそうな顔をした。
「よかったわ。じゃあ、平島駅のバス停に八時集合ね」
「わか、った」
少しぎこちなく答えてしまう。
私なんかがそんな、すぐにみんなに会えるはずない。怖い。
でも、彩がこんなに嬉しそうな顔をしてるんだ。それなのに、私が彩の笑顔を壊すわけにはいかない。
「あ、あれ翔じゃない?」
彩の声の通り前を見るといつの間にか公園に着いていたのか、噴水の前で翔がスマホをいじっていた。
「ほんとだね、あれ翔だ」
と私が言った時、私の声に気がついたのか翔がこちらを向いた。
「よっ、腹減ったな!」
「おはよーって、百合めっちゃ笑ってるけど、どうした⁉︎」
ふっ、ふふ。そう、今私は笑いが止まらない。だって、
「翔のTシャツにハンバーガーの絵が描いてあるし、最初の挨拶が『腹減ったな!』なんだもん!どんだけ食べること好きなんだよ!って感じ!ふふっ、ぷっ、くくっ」
言いながらも笑いが止まらない私。
「……百合が笑っててよかった」
「ばか、これからも百合のことを笑顔にできるのはあなただけよ?」
「…どーかな」
なんて、二人が話してるのも気がつかずに私は笑い続けていた。

ふぅ…。疲れた……。
私はあの後、笑い続けて今に至る。
「やっと笑い終わった?」
「笑いすぎよ。そんなに翔が面白かったかしら?」
二人が呆れたように笑いながら、私の肩に手を回しながら話しかけて来た。
「うん、めっちゃ面白かった!てか、私が言うのもあれだけど、早く場所取ろ!」
「百合が言うな、ばか」
「まー、そうね。暑くなって来たし日陰がいいんじゃない?」
「「賛成!」」
私と翔の声が重なって、思わず三人で笑った。


「よし、ここでいいね」
私が声を発したと同時に彩がレジャーシートを敷いた。
「なかなか、いい場所が見つからなくて大変だったわ」
「マジ、それな」
翔が髪をかき上げながら言った。
彩達が言う通り、なかなか混んでいていい場所が見つからず、すごく大変だった。
ん……?
なんだろ……?

誰かと思い、顔を上げた瞬間、息ができなくなった。
なん、で…。
嘘…、でしょ…。
「うわ、やっぱり岡山じゃん!」
その声を聞いて、私は耳を塞ぎたくなった。
だって、目の前にいるのは私を学校に行けなくさせた奴の一人だから。
森田隼也。同じクラスの人気者。パパがなんかの社長とかでいつも偉そうな奴。
目の前にいるのは三人。一人は森田。他の二人は誰かわからないけど、怖いのは事実。
「誰〜?この子」
「岡山って言う、同じ学校の奴」
「へー、めっちゃ可愛い顔してんじゃん」
三人でコソコソと話しているけれど、今はそんなことどうでもよくて、とにかくどこかに隠れたい気分だった。
どうしよう…、怖い…っ。
「なぁ、岡山。俺達と一緒に昼食べようぜ」
「え?」
思わず出てしまった声。
だってもっと意地悪言われると思っていたから。
でも…、このお誘いはもちろん断る。私には翔と彩がいるから。
「あ、の…」
「ん?何聞こえなーい。あ、断るの禁止な」
「うわ〜、やってるわー。森田、こえ〜」
「ぎゃははは、ウケる!」
っ…。やっぱり断るなんて無理だ。断ったら多分、昔と同じことをされる。そんなことを考えたら、ただご飯を一緒に食べるだけだし、そっちの方がいい。
てか、なんでこんな時に、彩も翔もいないのよ…っ!守ってくれるはずなのに、いざって時にいないんだから…。
なんて、心の中で愚痴を言いながらも、助けてって思う。
「じゃ、行こー。俺らあそこ取ってっから」
「……」
何も言わずに言われた通りに森田達の後ろを歩いた。
「てか、森田さー、こんな美少女が学校にいたら、好きになんねーの?」
その言葉に心臓が嫌な音を立てた。
「なったよ、好きに。でも、振ったんだよこいつ。俺のことを」
「は?マジ?お疲れ〜‼︎ぎゃはははは」
やめて、その話は…。
「うわ、森田が振られるとか初めて見た〜‼︎」
森田の機嫌が悪くなる…。
でも、私の予想は外れた。森田は鬱陶しそうにしながらも、不機嫌にはなっていなかった。
「ちっ、うるせぇな。ほら岡山、これやるよ」
そう言って、森田から差し出されたおにぎり。舌打ちをしてはいるものの、ちょっと照れ臭そうに渡して来た。
「あ、ありがと、う…」
なんて意外といいところもあるんだなと思ったのも束の間だった。
「なあ、俺と付き合わない?」
は………?
え………?
…………はあ⁉︎
私、昔森田のこと振ったはずだけど!
なんか逆に冷静になっちゃって、森田以外の二人もポカンとしている。
「え、いや、あの…⁇」
私が断ろうとしたら、森田が近づいてきてそっと私の耳元で囁いた。
「断ったら、昔と同じようなことするよ?」
「………っ」
そんな絶望的なことを言われた私は、何も言えなくなってしまった。
なんで、こんなにも卑怯なの?最低だよ…。



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