心に刻まれし、君への想い

教室に戻り早速、声をかけてみようとはしたが、高野くんの周りには常に誰かがいて叶わなかった。次から次へと話しかけられていて相変わらず人気者だ。

「せっかく勇気を出したのになぁ」

明日になったら小さな勇気が(しぼ)んでしまいそうで怖い。


「勇気?」

「ダメ!」

ものすごい速さでチョコドーナツを完食した礼司は私のお皿にまで手を出そうとするので阻止する。


「高野くんにリレーを教えてもらおうと思って」

「スポーツ大会の?」


昨日に引き続き理科準備室の掃除を長谷川先生から命じられた礼司を手伝ってから、一緒にドーナツショップに来た。


「うん。ほら、高野くんは陸上部だったしさ」

「そうだな」

そっか。礼司も高野くんが陸上部って知ってたんだ。

「クラスの足を引っ張りたくないし。高野くん、勉強の教え方も上手だったし、分かりやすくアドバイスくれるかなって」

「ふぅん」


どうでも良さそうに返事をした礼司はお財布を持って立ち上がった。


「でも声かけるタイミングがなくてさ…」

「そんなの、大声で言えばいいだろ」

声のボリュームの問題ではないんだけど…。追加のドーナツを買いに行く礼司の後姿を目で追いながらら、溜息をついた。
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